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聞こえる・聞こえないに関わらず、伝えるための手段を身につけると世界が広がる。 |
(著書P136より抜粋)
「見た目は普通の人と変わりないから、わからないんだと思う」。ある先生が言った言葉です。「聞こえないって、外見ではわからない」ということ。目からうろこが落ちる思いでした。それから私は少しずつ、聞こえないことをまわりに伝え、自分が現実的に生きることを模索しはじめました。
気がつけば、雨が屋根をたたく音も、うなるような風の音も、春の夜の蛙の大合唱、父と母が私を呼ぶ声、弟や妹達のにぎやかな声も、「記憶」という形で存在するものとなっていました。(原文まま)
自分の現状をなかなか受け入れられない、人に伝えられないという苦しさ。これは当事者でない限りわからないことかもしれません。けれど、隠しておきたい、触れられたくない事実を心の隅っこに追いやらずに、オープンにすると景色が変わってくる。果林さんは自分の現状を受けとめ、伝えることで、支えてくれる人が増えていきました。聞こえる力が不足してることは人として恥ずかしいことではない。それを正直に伝えられずにバリアを張る心が「現実」を隔離し、「恥ずかしいこと」にしてしまう。
実は聴覚障害者の多くは、病院などでは特に筆談で診断を受けざるを得ない状況にある。海外では病院専門の手話通訳士が勤務し、聴覚障害者と医師の橋渡しを専門職にしているという。病院は具体的な症状を伝えないとならず、あまり人に知られたくないこともある。そのうえ、病名や臓器など具体的な病気に関する知識がないと、なかなか医師の説明を的確な手話で伝えることはできない。そのため、医学や薬学など知識を身につけた病院専門の手話通訳士が職業として認知されている。
「日本の手話通訳士はボランティアの方々が手弁当で動いてくださっているのがほとんど。時給にすれば学生アルバイト並みの低賃金(※注)で働いてくださっています。もっとこの仕事に携わる方が職業として名乗れるようにしたい。そのためには国にも、必要性を感じてもらわないと」
聞えることも聞こえないことも両方知っている自分だからこそできることを伝えていきたい。まだまだ社会へ働きかけていくことは山積みだ。
(※注)手話通訳の派遣費用は、資格の有無や地域、所属によって千差万別。ちなみに「手話通訳士」とは厚生労働省認定の国家資格保有者。全国で手話通訳活動ができるため賃金もそれなり。<平成21年度で2594人>
一方、「登録手話通訳者」は県や、市町村レベルで登録している通訳者。地域内のみの派遣で、聴覚障害者が社会参加に必要な場面(学校、病院、役所や講習会等)で無料派遣してもらえる。賃金は地域によってまちまちだが、時給はアルバイト並みに低いことも。<最新のデータで平成14年度3600人、今はもっと増えていると思われる>そのほか、フリーランスの手話通訳者も存在する。いずれにせよ、手話通訳が職業として成り立たないので、育児を卒業した主婦層が多く、若い人が育たない現実が日本にはあるという。
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