
きまぐれ料理人/栄養士
オーダー弁当それぞれ主宰
菊地未来
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1989年生まれ。埼玉県生まれ、三浦市在住。中高で運動部に所属し、食の大切さを痛感。目的をもって勉強するため栄養士の資格を取得する短期大学へ進学。卒業後、認可保育園の調理室で3年間務める。その後、たくさんのフードスタイリストのコーディネートに胸躍らせ、テーブルウエアのリースショップ勤務を経て、カフェの製造部門、パン屋の製造部門で具材調理・パンの成形・焼きなど経験。健康食品会社の社員食堂で大量調理を経験し、事業者責任者として運営全般行った。三崎の「朝めしあるべ」で半年間店主を経て、現在に至る。
9月に黄金町スタジオで偶然お見掛けした菊地未来さん。「三浦でお弁当屋さんを……」と話されているセリフが耳に入り、思わずお声がけ。どんなお弁当?なぜ三浦?いつ、どこで買えるの?と思わず取材モードに(笑)、改めての取材となりました。たまたま取材の何日か前に、リドレ横須賀で出張販売をされていたので購入したところ、そのおいしさにビックリ!他とはまったく被らない唯一無二の手の込んだお弁当。食べることが大好きな私としては、それぞれが食堂をするなら毎日でも通いたい。これまでの職歴、そして食で目指していることとは?三浦海岸の「魚常荘」にてお話を伺いました。




高価格帯のお弁当だからこそ、丁寧に関係づくりも。
—先日のお弁当に衝撃を受けました。本当においしかった!毎日買うには少しお高めではありますが、自分へのご褒美としての特別な日に食べたい。そういうお客さんが買いに来られるのですか?
そこに集中して作っています。出店場所はいろんな所へ出向いて月1回、そこに来るお客さんとお会いできたらいいなと。リドレ横須賀では2年前から出店しています。月1土曜日ですが、何週目とは決まっておらず。三浦半島の生産者さんなどの団体活動の一つ「食彩マーケット」でお野菜販売のお手伝いをしながら、お隣でお弁当も販売させて頂いています。リドレ横須賀で販売するお弁当は、お野菜販売をしている高梨農場さんのものです。
—パプリカのチーズ詰めもありましたよね。あと茄子のはさみ揚げとか。どれもめっちゃおいしくて、手が込んでいるのにヘルシーなお惣菜が何種類も。でも、個人的な感覚として横須賀は価値あるものにお金を落とさない。MORESのデパ地下もあって安いお弁当も売っているから、『ちょっといいお弁当』はどのくらい需要があるものですか?
実は始めた頃、リドレでは5個も売れなかった。一人でやっているので、その時はお釣りのでない1000円でやっていたものの「こんな高い弁当買ったことない!」と言われ、意見はたくさん頂きました。でも、価格帯はぶれなかった。値下げしたら自分のやりたいことができなくなってしまうので、仕込みは今まで以上に力を入れました。他の人には作れないようなものも頑張って入れて、この弁当に価値を持たせようと。値段は下げずにリピーターは増やしたい。この値段を出しても食べたい。そう思ってもらえるように作ろうと思いました。
—購入層を価値がわかる人に絞ったのですね。そもそもどうして食の仕事を目指したのですか?
高校卒業後、大学4年間も勉強するのは目的がないとしんどいと思いました。自分は何がやりたいのか?考えると、食に一番興味があった。勉強期間も2年くらいがちょうどよくて、早く働きたかった。資格という強みがほしかったので、栄養士養成の学校を選択しました。
もともとラクロスや水泳などスポーツをやっていたのでスポーツ栄養とかアスリート飯に興味があった。最初の仕事場は保育園の調理室。3年間勤務したものの、自分が何をやりたいかわからなかった。離乳食、幼児食、アレルギー食など経験から学びましたが、いったん正社員という枠から外れようと思い、雇用形態をバイトに切り替えて転職。
—正社員という雇用形態を捨てたのは覚悟が必要でしたね。バイトはどんな?
最初のバイト先では食器とかカトラリー、生地など貸し出す器のリースショップ。料理本見るのが昔から好きで、その時に流行っていた料理本でセンスのいいお皿で作っている料理人がいて辿ると、そのリース屋さんに。こういう仕事がある!と初めて知り、リースショップに出向いた。ちょうど器部門のオープニングスタッフを募集していて、そこで仕事を始めました。この料理に、この食器を使うとこうなる!と知り、改めてご飯を作りたくなった。




興味をもつと即行動、環境を選んで経験を積む。
—フードスタイリストご用達のリース屋さんがあったのですね。再びご飯作りはどこで?
D&Dカフェで仕事を始めました。私の勤務シフトは朝、昼、晩の時間帯すべて。朝はサンドイッチ、キッシュ、ホームメイドケーキ作り。昼はランチ、夜はシェフのサポートと仕込み。楽しかったけれど忙し過ぎて体調も崩しました。
ちょうどInstagramが流行り始めて、友達からオシャレなパン屋さんが募集していると教えられ、インスタ見た瞬間「なんだここは!」と知りたくなって、すぐお店に行きました。面接日に初めて食べたパンがおいしくて衝撃的でした。そこで数年間仕事をしました。パンは成形とかそういうのが難しい。私は具材づくりの部門でカレーパンの中身を作ったりしていました。年功序列で具材作り以外のこともたくさん学ばせて頂きました。あれこれ様々なことをやらせてもらったものの、そこでまた体調を崩しました。
—D&Dカフェからの流れで同じような(笑)、重労働でしたね。その後は?
目指すものがまたわからなくなって、一回整えようと心機一転、何も決まっていない状態で辞めました。たまたま弟の就職が決まり、横浜に引っ越すことになって、横浜に住んでみたいなと思い立ち。3つ違いの弟とは、幼い頃からずっと仲が良くて趣味も似ていて友達感覚。なかば無理やり一緒に住んで、横浜で再び就活。
食の仕事をする自分が健康でいなければという想いもあり、それで健康食品大手F社の社食に決まりました。そこに3年ほど勤務。1日300食くらい作りました。社員を一人しか置かない現場で、他はパートさん。朝パートさんが来る前に仕込み、パートさんが盛り付けをセッティング。基本的に健康メニューを展開。全部計量して作る。コロナ禍で食数は多少変わり、かつ丼や外食系スタミナ飯も作ってほしいと要望も受けた。
—社食は大変ですよね。健康食品系だと細かそうですし。いつも厳しい環境に飛び込みますね。
そんななかテレビで同姓同名の「菊地未来」さんという方が三崎に「朝めしあるべ」という朝ごはん屋さんを営業されているのを聞いて、その方に興味をもちました。調べたらスタッフ募集をしていたので、ガッツリできないけれど何かお手伝いできないかなとコンタクトをしてみました。
—ここまで聞いている職歴だけでも積極的!同姓同名の人なら尚更関心持ちますね。
どんな場所だろう?と会いに行った。あるべの定食は、干物や焼き魚とご飯と汁、三浦の野菜を使った小鉢です。朝ごはん定食だけでなく、将来飲食店を始めたい人向けのトライアルスペースもあって、そこでまずトライアルすれば?と提案を頂いた。仕事もすぐに辞められなかったので月~金はF社の社食で勤務、土曜に三崎で買い出しと仕込み。日曜の早朝から「朝めしあるべ」を手伝い、昼からレンタルスペースでトライアルキッチン。そういうことを月2回、1年くらい続けました。
三浦に来て三浦野菜のおいしさに感動したり、生産者さんから直接野菜が買えることが新鮮で、それが本当に楽しくて、間近に季節を感じられるのが嬉しかった。おいしくて新鮮な野菜が身近で手に入るので、あれ作りたいなぁ、とワクワクするんです。
その後、朝めしあるべの店主をやってもらえないか、という話を頂いて。それでF社の社食を辞めて三崎にお引っ越し。半年くらい店主として働きました。でも、やはり自分の看板でやりたい!という気持ちが強くなりました。




やりたいことを自問し、一人で始められることを選択。
—自分のやり方で挑戦したいと思ったのですね。
やりたいことって何だろう?と考える時期でした。その結果、私はひとりで、できることを始めたいと思った。朝めしあるべをやりながら、近所の人に営業してお弁当箱をもって来てもらって、それに詰めて身内向けに800~1000円で作っていました。定食屋だと、作って、提供して、お会計、洗い物などすべてワンオペは無理。近所の人が見かねて洗い物を手伝ってくれても、その厚意にいつまでも甘えられない。それで、まず一人でできるお弁当屋にしようと。
—すごいバイタリティー。若くないと越えられない山ってありますよね。
今の悩みは拠点がないこと。スペースを借りているので、オーダーしてくださるお客さんにわかりにくい。Instagramをみてもらい認知されますが、そもそもInstagramを見ていない層へアピール方法とか考えないと。次はここでやります!がなかなか周知しにくい。
—みくちゃんが偉いのはちゃんとリセットして続けられていることですね。
一つの所で何年も続かないと思われてしまうかも。でも、決めたらその方向へ進むしかない。そうしないと先に進めないので。モヤモヤ、グジグジしている時間がもったいなくて。
—わかります!それは私も同じ。雇用形態ではなくて自分がどういうことをやっていきたいか?そのモチベーションが、物事を動かすには必要ですよね。
今回、『オーダー弁当それぞれ』になってから初めて全部自分で決めています。誰かに相談もしますが、最終的に判断するのは自分。大変でもあるし、苦しんだりもしますが、あれしたいこれしたいという気持ちが止まらないのは初めてです。急に進められない案件もありますが、最終的にこうしたいという気持ちが湧きたつのは今までなかった。雇われていた時は、言われたことをこなすお仕事でしたが、今は自分の可能性を勝手に感じています。
—素晴らしい!自分で看板をもってこその仕事ですよね。ところでオーダー弁当それぞれというのは、どうしてこのネーミングに?かわいいニャンコがキャラクターですけれど。
私は、その時の旬の食材を見て気まぐれでメニューを考えているので、きまぐれ料理人という肩書に。きまぐれというところからモチーフは猫に。それぞれは塩分が気になる人には塩分控えめに。注文する人のそれぞれのご要望に対応して作りますよ、という意味を込めました。お弁当、お料理代行、オードブルなどいろんなカテゴリーの仕事に取り組んでいますが、たまのお楽しみなお弁当、共働きでお料理をしっかり作れない家庭料理、お祝いの席を飾る華やかなオードブルなど、それぞれ求められていることが違います。仕事のパターンは決まっていません。ご相談や会話によって、すべてオーダーメイドで決めています。
—では最後に、10月開催の黄金町キッチンでのイベントご案内もどうぞ。
今、黄金町キッチンに「三浦の日」というのがあります。取りまとめているリンノンフラワーズさんとは「朝めしあるべ」のトライアルスペースで出会ってからのお付き合いで、お誘い頂き出店することになりました。10月29日水曜日、一日限りです。11時~16時予定。大体、月1回の水曜日に「三浦の日」があります。メニューは、雑穀米のデリプレート、スープセットで1,700円。ドリンクセットかデザートセットか選べて2,300円。その他、黄金町パンとコーヒーマルシェのInstagramでも情報あげていますのでチェックしてみてください。


—ありがとうございました。

食は人を支える基本!しっかりご飯を食べないとイライラするし体調も崩す。私はおいしいものが大好きなので、おいしい料理を作れる人を心底リスペクト。試行錯誤しながら、一人でがんばっている姿も21年前に起業した自分を思い出し、熱いものが込み上げてきちゃいました(笑)。何度転んでも、時に立ち止まりながら、目指す方向に進む。その繰り返しなんですよねぇ。魚常荘も素敵なスペース!今度はお料理をオーダーさせてくださいね。
(2025年9月取材・執筆/マザールあべみちこ)
\\ 取材の一部を音源データでご紹介します //





