
哲学者/作家/作文教室「作文堂」主宰
大竹稽さん
哲学者、教育者。一般社団法人こども禅大学代表理事。1970年愛知県生まれ、旭丘高校出身。東大理系、文系と二度やめ、哲学の道に進む。
娘のASD診断を受けて発達障害の啓蒙活動を始める。三浦市では松輪福泉寺や、鎌倉市や横須賀市の寺院で、お母さん向けの啓蒙活動や子どもの作文教室を開いている。
編著書24冊。『ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)』など。編訳書に『超訳モンテーニュ(ディスカバー21)』など。
今回ご紹介する大竹稽先生は作文堂というユニークな教室を主宰されています。「みんなのKICHI」では作文教室もいちコンテンツとして予定していますが、ふつうの作文教室ではつまらない。他はどんなことしているのかな~?と視察も兼ねて軽いノリで参加。きっかけは前回みんキチインタビューにご登場の志田文野さん。「おもしろい作文教室がお寺でやっている。子どもを連れて行ってみたい」とのことで便乗。目指すは鎌倉建長寺!座禅を済ませてお教室スタート。気持ちが引き締まり、いい風が吹く室内。教室時間中、笑いが絶えず。終了後の取材で、まさかの偶然が!奇跡的な巡り合わせに感謝です。どんな教室か?なぜこうしたスタイルか?などじっくりお話を伺いました。

東大医学部から哲学を学ぶ道へ変更。
—きょうは鎌倉建長寺にて体験講座を参加させていただきましてありがとうございました。作文は書きませんでしたがとても楽しい時間で(笑)。先生は三浦市にお住まいですね?
出身は、愛知県蒲郡市です。水田や海山があって、そういう自然環境で育ってきた。妻の妊娠をきっかけに2019年、東京都世田谷区から三浦市へ移住しました。今年で6年になります。東京で子育てをするのが嫌で、東京で育っていない僕は自然豊かな場所を求めた。最初はミーハー気分で鎌倉あたりを狙っていましたが、道が狭いうえ土地がない。それで順番に鎌倉、逗子、葉山、横須賀とだんだん南下して三浦に収まった。
—三浦と横須賀は隣接しています。今の子育て環境に満足されていますか?
三浦も横須賀も旧態依然としている、と聞きます。子育ては大人の意識改革が必要です。それで、作文堂は子どもを対象にしていますが、家族単位で参加してもらっています。参加費は一人でも二人でも三人でも変わりません。
—親子参加のスタイルはユニークですね!そもそも作文堂をつくられたきっかけは?
2015年から作文堂を始めて、ちょうど10年経ちます。僕は東大大学院の博士課程を辞めてから、最初は哲学的な教室を開こうと思った。でもそういう教室は、ごくごく少数関心のある人はいても、広い意味で興味は持たれません。「考えることは発見すること、視点を変えること」という僕の哲学的メッセージも含まれていますが、子どもを対象にしたかったので、できるだけそれは後ろにして。お母さんたちが楽しんでもらえる場所か?を試行錯誤しながら、何度も何度も失敗を繰り返して今の形に。これが完成形とは思っていませんが、今の形はだいぶおもしろいなと思います。
—優秀!東大の大学院にいらしたんですね。哲学を志したのは何か理由があって?
哲学の前は、医学でした。東大医学部にいたのですが、医学ではないなーと思ったのです。言ってみれば「心のお手当」をするとなった時、それは何か?心理ではなく哲学でした。フランス哲学を中心に学んで、東大総合文化研究科地域文化研究専攻の修士課程に再入学をした。哲学専攻にして本気で勉強しようと。
—またまたすごいルートですね。最初は医者になるおつもりで医学部へ?
いっぷう変わった経歴です。人間に悪い所があったら、お手当てしたい気持ちが強い。哲学は治療行為ではありませんが、考えることでゼロから何かを生み出す。考えが偏っていると、それは僕にとって病気。思考の塊は、思考そのものが苦しい。「考えたくない」とか「誰かに任せる」になってしまうのを見ていると、いや違うんです!と言いたい。それを流していくのが人生楽しいし、リラックスできるのを伝えていきたい。体を治すより、考え方の偏りを矯正する。そういうのが好きなんですね。




当たり前の思い込みを外し、発見して語る。
—「考え方の偏りを矯正する」とは、おもしろい。とても共感します。講座には積極的な方が参加されていますが、それでも発表はモジモジ。そういう点を先生は、「何でも自由に言葉にしていいよ」と促されている?
「評価」がついてしまう教育環境では自由な発想ができない。楽しさは些細なところに転がっている。きょうも子どもたちが言った答えで、「こんなところ見逃していた!」と気づくと笑える。世の中には当たり前と思い込んでいることが多過ぎて、実はそこを暴いていくのがおもしろい。もっと皆で一緒にどんどん発見して、当たり前だと思い込んでいたことが、そうでなくなってくといいなと思っています。
—常識を覆す視点、楽しいです。ところで今、作文堂はいろいろな場所で開催されていますね?
東京、鎌倉、三浦の3地点です。横須賀は準備中で、これから開講予定。また横浜(保土ヶ谷区)も場所をお借りしてスタートしたところで、生徒さんを募集しています。家族単位で参加ですので、3家族以上の希望があれば開講します。いろいろな作文教室があると思いますが、型を伝えるものばかり。僕はそういう型式ではなく、ネタの探し方を伝授しています。ネタさえあれば、型に嵌めることなんて容易い。大事なのは自分でネタを探し、自分の言葉を持つこと。それがなかなか難しい。
—子どもは経験も足りなかったり、新しいことに飛び込むのが怖かったり。ネタ以外で悩むかもしれない。
いろんなところで驚きを発見するという姿勢ができていないのでしょう。
—ところで先生は幼少期から理数系もお得意でした?。
本当に好きなのは理数系だと思います。虫や生物が特に。本を読むのが好きで、今は作家にもなっていますが、生まれ変われるなら虫の先生になりたいな。幼少期はゲームもあまり得意でなかったし、スポーツもそれほど好きではありませんでした。野山で生き物や虫と戯れているのが好きな子でしたね。
—小さな頃から虫博士だったんですね?
そうです。きょうも子どもたちがスズメバチの話をしていましたね。ハチは全部危険な生き物というなら、それは違うよと。スズメバチのほか、クマバチとかマルハナバチとかアシナガバチはまだ友達になれる。スズメバチは攻撃してくるからそこは違う。でも生態系の中で役に立つことはあるはずです。虫への嫌悪感をなくして、虫との付き合い方を伝えていきたいと思います。



作文という枠に嵌るのではなく、身近に目を向け言葉にする。
—おもしろいですね。作文という枠でなく、身近にある命とか生き物に対する視座がネタになる。もはや作文を超えた学問では?
歴史も、文学も、科学も、全部入っている。今日は「こぶとり爺さん」の話を元にしましたが、たとえば「瘤(こぶ)」って組織はどうなっているのか。取りやすいものか?など調査しだすと、それは科学とか生物の領域になります。同じように、「鬼」についても。なぜ朝になったら帰ってしまうのか?を考えると、文化や現象に踏み込んで話が進む。そんなことをやっていきたいのです。
—クリエイティブな話の広がり方は楽しいです。横須賀の教室はこれからとのこと。先生お一人であちこち飛び回っていますが今後も変わらず?
他の塾と違ってこのスタイルは僕しかできないと思う。教科を教えるなら、他の先生でもできます。でも遊びの感覚で子どもたちを導くのは、自分でいうのもなんですが、そこそこハードルが高い。こういうスタイルの作文教室は、この先もぼくがやっていくでしょう。作文というのは、考える、発見するということ。大人と子どもが混じって学ぶということ。最終的に文章にしないと意味がないので。
—だいぶ前に亡くなられてますが、神保町におもしろい作文教室がありました。ご存じでしょうか…。
宮川先生の教室ですか?2014年に亡くなられて、その後に授業代講もしました。お若くしてご逝去されました。作文堂は宮川先生の教えを昇華したスタイルの教室です。宮川先生は昔話をよく使われていました。先生はかなり感覚的な発想をする人でしたが、僕はどちらかというと筋道を重視する。導く途中で発見して、自分なりに組み立てていく。一つの思考のプロセスを考える。僕なりの哲学的姿勢もあると思います。
—そうでしたか!偶然にしてもおつながりにびっくりです。ところで横須賀には不登校、引きこもり問題があります。先生はこの問題をどう捉えていますか?
学校はすべてではないし、家もすべてではない。今の社会は自己責任というプレッシャーをかける仕組みになっている。自立するのも親の責任。親は子どもに自立心を養わせるためにたくさん習い事をさせるし、塾に行かせる。親の思い込みをまず外してみることです。
家で何とかなるものではないからホームスクールの考え方は好きじゃない。お母さんが子どもを託せる、ゆるい集合体があれば、引きこもりはなくなるのでは。不登校は選択肢の一つ。でも「登校」の否定形は嫌ですね。「積極的不登校」なんて表現も出ていますが、何それ?って。言葉遊びで問題解決したつもりになってしまうのは日本の悪い癖です。欧米からすると、そういう点が幼稚。問題の根本を考えなくてはいけない。
—根本を「発見」しないとならないのですね?
そうです。発見の仕方は人ぞれぞれでいい。表層でいじくって問題解決したつもりになるのも違う。僕が考える教育は、先生や教科書から学ぶものではない。農家のおばちゃんと話している中で、いろんなことを学ぶでしょうし。漁師のおっちゃんや、京急の車掌さんからだってそう。そうした人との交わりの中で学ぶのが楽しいし、それが積極的な学びだと思う。作文堂が家族単位なのは、子どもの成長を近くで見られるし、大人より子どもってすごいじゃん!と気づいてほしいからなのです。
—ありがとうございました。

大竹先生はお寺にしっくりと馴染む戎様みたいでした。作文教室ではかなり活発に子どもたちに混じって発言をさせていただきました。いやぁ~ほんとに楽しかった!「みんなのKICHI」でもぜひ出前講座をお願いしたいです。ともあれ今回は、なんて奇跡的な巡り合わせ!今は亡き宮川先生が手招きしてくださった気がします。また近いうちにぜひ。
(2025年6月取材・執筆/マザールあべみちこ)
\\ 取材の一部を音源データでご紹介します //





