みんキチVol.07│不登校の当事者と保護者と共事者で、月2回活動を定期的に勤しむ。


学校外の親子の居場所
よりどこ

代表・芹田枝里さん

1984年生まれ。歯学博士。2児の母。子ども達が、自閉スペクトラム症と診断を受けたことや小学校入学を機に不登校になったことをきっかけに、子どもは学校だけではなく、家庭や社会、地域でも学べることに気づく。2022年5月、横須賀市内でつながれた保護者たちと「学校外の親子の居場所よりどこ」を立ち上げ、現・代表。

不登校・ひきこもり支援の団体は増えていますが、今回ご紹介する「よりどこ」は当事者と保護者と共事者が介在したグループで取り組みをされています。保護者の対話と情報交換のできる「よりどこ親カフェ」と、親子で体験活動がたのしめる「よりどこフィールド」の2つの企画を月に2回、第一日曜日と第三木曜日に活動。特定の拠点を設けずに、横須賀市周辺の自然豊かな環境で取り組みをされています。HPからシンプルに活動趣旨が伝わり、筆者は不登校経験がなかったけれど何かできることで関わりたい!という気持ちで、今回コンタクトさせて頂きました。不登校といっても一括りにはできません。せめて持っている心の荷物をお互いに持ち合えるような『よりどころ』になれたらいいなという想いと、運営者も参加者も肩の力を抜けるような余白のある関係性を育みたい気持ちを込め、そこから一文字取ったという「よりどこ」。代表の芹田さんと副代表の2名田中(仮名)さん、長瀬さんを交え、初めてのオンライン取材となりました。(※ひとつの問いかけに複数名が回答されている場合は冒頭に( 〇〇さん)としています。それがない場合は代表の芹田さんの回答です)

わが子二人が自閉スペクトラム症。不登校児となり始めた活動。

—よりどこの活動はとてもシンプルでわかりやすいです。この活動を始めたきっかけをお聞かせいただけますか?

2022年5月に「よりどこ」を立ち上げました。発起人は私の他2人いて、3人で一緒にやろうと始めました。今、中1の息子が小1の時に不登校となって、というのが大元にあります。息子は4歳の時、自閉スペクトラム症と診断を受けました。支援級も合わず、小1の4月から不登校に。その頃、『ホームスクール』とか、『積極的不登校』というキーワードを聞く機会があったので、気持ちを切り替え、学校へ行っていても行ってなくても本人が自信を持って楽しく過ごせるのがいいかな、と思いました。当時、SNSで「ホームスクール」というキーワードでつながれたお母さんたちと「ホームスクーラーとおでかけ」というFacebookグループが立ち上がりました。私も参加したり、おでかけ企画をしたりで楽しかったですし、同じように悩んで、仲間を探している人がいることを知って心強かったので、これを地元で小さく始められたら不登校家庭の社会的孤立を防げるのでは?と考えました。。

—活動スタートはコロナ禍でしたね。今年で3年経ちますが、今日オンラインで参加されているメンバーのお二方とスタートされた?

(芹田さん)最初にご一緒していたお二人は運営を離れ別の活動を始められ、今のお二人は途中から関わってくれています。

(田中さん)はじめは参加者として、よりどこにお世話になっていました。うちも小1から不登校で、今中1の息子がいます。担任によって学校へ行ったり行かなかったりで、中学生になってからはまだ学校へ足は向いていません。

—そうでしたか。お子さんはずっと家にいる状態で?どこも出かけられず?心配ですね。

(田中さん)よりどこを通じてお母さん同士がつながることで、心配が少しずつ和らいでいきました。今は本人が笑顔なら平気かな、と本気で思えるようになっています。それも皆さんと出会えたおかげです。心配が全くないことはないのですが、比較的、前は向けているかな。パワーが貯まったら、そのうちまた動き出すのではないかと思えるようになってきたところです。

(長瀬さん)私は、大学3年生の娘がいますが、当事者の保護者でなく、共事者としてよりどこに関わっています。以前、運営メンバーだった方との交流があり、子育て世代や自助グループ団体の運営の大変さを知りました。不登校やひきこもりなどについては、看護師として働いていた時や、別団体で市民活動をする中でも、身近にある状況や問題で、そのことを共に考え、色々なことを育みあえる場所と人がいる『よりどこ』とのご縁が続いています。
また、よりどこ内だけでなく、他の場所や人との交流ができるためのサポートもしています。当事者同士だからの良さや辛さなどある中、共事者だからできる事を模索しながら活動しています。

—当事者と共事者のどちらもいらっしゃるのですね。よりどこフィールドに、お子さんたちは参加されている?

息子は思春期になってだんだん行かないという日もあります。小4の娘が(彼女も兄と同様4歳で自閉スペクトラム症と診断された)小1で不登校になって家にいますが、妹はフリースクールにも2か所くらい行っていたり、習い事やオンラインでも友達をつくれたりする社交的な子です。でも学校で正解を求められると、『失敗してしまうかも』『みんなと違うから変な子と言われてしまう』などと危惧して、学校には行けていない。よりどこフィールドには、『友達と関わりたいから行く』『やってみたいことができそうだから行く』と言っています。

—ごきょうだいでも性格や求める趣向は異なりますよね。活動には毎回どのくらい参加者がいらっしゃるのでしょう?

よりどこにLINEグループがあって、16家庭の親御さんとつながっています。これまで一回でもよりどこの活動に参加された方を含めると、未就学から高校生のお子さんが25名くらい。お子さんが参加できなくても、お母さんだけ単独参加もアリです。今は平均して6家庭くらい集まります。お子さんは10人前後です。。

固定観念を取り払い、親の価値観をひっくり返すことが必要。

—よりどこの活動参加者募集はSNSでされているのですか?

今はInstagramとFacebookをメインで告知をしています。一番多いのは、参加されている方のつながりの方。口コミが多いです。お子さんに発達障がいの診断がついていたり、いなかったり。服薬していたり、いなかったり。学校の一斉授業や集団活動、音や匂いなどの感覚的なものも含め環境が合わないお子さんが多い印象です。医療や療育等と定期的に関わっているご家庭もいらっしゃいますし、我が家も療育センターや放課後等デイサービス、市の教育相談にも通っています。

—芹田さんは二人のお子さんが自閉スペクトラム症ということで。ご自身のお仕事は、やりくりをしながらお子さまのケアを?

私は歯科医師として働いていて、今は合計して月に10日くらいの勤務です。自分のキャリアアップも考えたいですが、今は子ども優先。そういうどっちつかずの苦しい状況ですが、不登校のお子さんがいる共働き家庭では働けなくなるケースが多く、離職率も高いのが現状です。私自身も経済的な不安はありますが、よりどこの運営者としても、ここがあることで気持ちが救われていて、ありがたいです。

—シビアな話ですね。田中さんのお宅はいかがですか?

(田中さん)子どもが不登校に直面した親は、価値観をひっくり返さないとならない。学校は行くものだと思っているのが大半ですが、そうではないかもしれなくて…。学校に行かないというだけで、子どもの良い点を見失うのが私にとって一番つらかった。不登校初期が一番つらくて、息子に言わなくていいことを言ってしまっていた。そこを越えることができ、親が情報を集めたり、子どもにちょっと元気が出てきたりしてくると、解決しないまでも比較的穏やかな不登校かなと思いますが、そこまでが結構つらくて…。保護者同士が関わりをもつことで親の固定観念が崩れ、価値観をひっくり返せるようになります。それで、やっとちょっと楽になってくる(社会的な課題はまだまだ山積みですが…)。芹田さんと同様私も、自分自身が救われていると感じます。1か月前に皆さんと話して、そういう価値観いいな!と思っても、1カ月暮らすうちにまた良くない思いが生まれて、でもまた皆さんと会って話すと、そうだ!そうだった!と思い出せる。それは一回では、なかなか塗り替えられない。。

—不登校に限らず、子どもと対峙する問題は親の価値観ひっくり返さないとならないことは多いと思います。わが子とはいえ違う人格ですし。田中さんは仕事面で、不登校による変化はありましたか?

(田中さん)うちは最初の葛藤を越えた後は比較的穏やかに過ごしていたので、親の会に行くきっかけがありませんでした。親の会がどういうところかも、イマイチわかってなかったですし…。その後、自分一人での情報量では限界がきてしまったことや、本人が体調を崩してしまったこともあり、思い切ってよりどこに参加するようになりました。

仕事に関しては子どもが小学生になったらパートでもしようと思っていました。好きだった接客業がやれたらいいなと。でもその数年前に耳を悪くしたことや、子どもと離れられない状態で、働きには出られませんでした。それでもお金は掛かる……。これしかないと飛び込んだ世界が、在宅フリーランスでした。わたしの場合は不登校を機に、新たな世界を見つけられました。

—お子さんはお家にいて、何をしている時間が長いのでしょう?

(田中さん)ほとんどデジタルで何かをしています。タブレットで動画を見たり、イラストを描いたり、youtubeチャンネルを立ち上げて動画を作成してみたり…。あとはネットで知り合った友達とゲームをしたり。
体調を崩していた時期は、そういうこともできませんでしたが。最近は笑顔も戻ってきています。

かっちりしたルールより、余白のある活動にしたい。

—いろんな親御さんがいて、子どもとの向き合い方がそれぞれ違うものなのだと感じています。アウトプットができる場所があること。よりどこ親カフェで共感しあえるのは救いですね。他の団体とよりどこはここが違う点は?

当事者だけでなく共事者、保護者と一緒に運営しているのが他の団体と違うと思います。ちょっと客観的な視点が入るのはいいところ。親カフェも今不登校のお母さんもいれば、過去に不登校を経験したお母さんもいる。ピアサポートのようになっています。親の会というと、まずお母さんが元気になりましょうという趣旨でされている活動が多いと思います。確かにそうなのですが、私自身が過去にまだ母子分離ができない時期に、子連れで親の会に参加した時、ちょっと疎外感がありました。子どもを連れてきてもいいという会でしたが、「なぜ子どもを連れてきたの?」というような。もし自分が親の会をする側になれたら、親だけでなく子ども同伴で参加できるといいなと思いました。試行錯誤しながらですが、長瀬さんが子どもの話を聞きながらちょっとボードゲームを用意してくれたり遊んでくれたりすることもあります。また、運営メンバー含め活動に参加する人たちが少しでも安心して居心地よく集えるよう、負担のない範囲で、できる限り丁寧に事前準備をしています。
運営メンバーも保護者の1人なので、親として、我が子と関わりながら活動できるよう、共事者がサポートしている形は、よりどこの特徴かもしれません。

—それは大切なポイントかもしれませんね。

子どもだけが参加するフリースクールとか、親子別々で受ける教育相談とか、親だけの親の会とか、それぞれ重要ですが、そこまで閉じ過ぎず、開き過ぎず。半分閉じて、半分開いている。風通しのよい余白のあるような活動にしたい。よりどこの由来も、余白がほしいなと思って一文字取ってみました。

—余白って必要ですよ。むしろそれがすべてと言っていい。今の教育に必要だと思うことを一言ずついただけますか。

(芹田さん)うちの子は、いわゆる学校の授業や教科書的な学び方が合いにくいです。ゲームも好きで動画配信したり、娘は絵が好きで集中していろんな絵を描いたりするのですが、2人とも字を書きたくても書字は苦手。でもニュースを観たりすると視点がおもしろかったりしますし、会話でいろいろ考えたりします。絵本や漫画を、寝る前に読み聞かせするのも親子の大事なコミュニケーションタイムです。学び方が、学校とか塾、家庭教師にはハマりにくい子に、親が頑張らなくても家庭以外で学べる機会や場所、人とのつながりがもうちょっとあるといいなと思います。学校に合わないと思いながら通っている子もいると思うので、不登校になれない子にも寄り添ってもらいたい。NPO法人カタリバがやっている「room-K」のような多種多様な取り組みが出てくるといいなと思っています。。

(田中さん)さっきの余白につながると思いますが、学校に限らず昭和の心地よい適当な感じ。今は公園でサッカーや野球もできないなど窮屈ですよね…。それと、わたしは子どもに付き添って、母子登校を4学年にわたり、多い時には半年以上していたことがあったので、様々な先生の様子を見る機会がありました。すごく柔軟で素敵な先生もいらっしゃいましたが、「毎日怒鳴る」「連帯責任」などとキツキツな先生もいらして、もうちょっと子どもを泳がせてみてもいいのではと感じることもありました。先生方がお忙しく、余裕がないというのも社会問題になっていますよね。あとは、わたしたちの時にはなかったと思うのですが、毎日宿題が出ることも今の子たちは大変そうですよね。失敗してもいい、完璧じゃなくていい……ということをもっと先生(大人)が見せてしまってもいいのかも?とも。

(長瀬さん)昨今、『多様な学び』という言葉を耳にしますが、大人の学び始めや学び直しが必要だと思います。これからは、人権教育として、子どもの権利を考えながら、大人も学びあう。教育ではなく、共に育むのほうの共育が必要だと思います。自分の気持ちを大事に、同意や自己決定ができる環境づくりが大切だと感じます。フランスでは在宅教育支援エデュケーターやデンマークのペタゴーなど、学校内外で、子どもの傍で寄り添い見守りながら支援する専門家や制度があります。日本ではそのような環境はまたまだないですが、子どもをとりまく人的環境として必要な考え方だと思います。

—座右の銘はありますか?

(芹田さん)座右の銘と言えるかは分からないですが「ほどほど幸せに生きる」「あの世に全部は持っていけない」。足るを知るというか、中庸でいたいという気持ちが根本にあるかもしれません。

(田中さん)エジソンの言葉で「私は実験に失敗したことがない。この方法ではうまくいかないという実験に成功したのだ」というのがなるほどです。こども用の伝記に載っていてその考えがおもしろいと思いました。もしかしたら、不登校にも結びつくかもなと。

(長瀬さん)小さなことからコツコツと。いきあたりバッチリ、いきたありとばっちり。否定からは何も生まれないが、否定から考えてみる。楽しむのではなく、面白がる。

—おもしろいですね。今ある場所で咲くこと、視点を変えて捉えること。では最後に一言あればどうぞ。

(田中さん)不登校の増加に伴い、居場所も増えていてとてもありがたいと思います。反面、「学校が無理でも居場所に行けばOK」という、新たな風潮に焦り、苦しむ家庭も出てくるのではないか?と心配もしています。自宅でパワーを貯めることが大切な時期もあるかと思うので…。

(芹田さん) 令和5年度の不登校児童生徒数は、横須賀市では1278人(小学生515人、中学生763人)、三浦市では84人(小学生28人、中学生56人)。横須賀市と三浦市を合わせて1362人います。
計算上、「よりどこ」につながれているお子さんは約1.8%です。
つながりたいけれどつながれていない人にどうアプローチするか。つながりたくない人にも必要な情報をどう届けるか。民間団体だけでなく、行政の方々とも一緒に考えていきたいです。

—ありがとうございました。


まず、不登校児がこんなにたくさんいる現実を知ろうとしないといけませんね。子どもを巣立たせるために何ができるか?を考えるのが親の役目ですが、その在り方は決して一様ではない。それにしても、よりどこの皆さんはきちんとされていてすごいなぁと感心することばかり。「みんなのKICHI」がスタートしたら、ゆるゆるとしに、いらしてくださいね。
(2025年3月取材・執筆/マザールあべみちこ)

取材の音源、今回はお休みします。