
一般社団法人Miraie
理事長・平本和弘さん
ミライエHP https://www.miraiemura.com/
小学校低学年で不登校・途中帰宅を経験。小・中・高・大と学校の枠を卒業後、住友重機械工業㈱に入社。帆船の日本丸・海王丸を作り、エンジニアとして活躍。神奈川県優秀技能者表彰や関東運輸局長賞、国土交通大臣賞を受賞。
現在、会社員のかたわらヒミツキチ森学園GM、横須賀三浦リトルシニア副会長、一般社団法人Miraie 理事長を兼務。
横須賀市根岸の住宅街を抜けると築100年ほどの古民家と蔵がある。タイムスリップしたかのような古き良き建物がMiraie(ミライエ)だ。自然豊かな土地には、陽当たりのよい暖地もあり、桜や梅の木が植えられ、蜜柑、グレープフルーツ、檸檬なども栽培している。古民家の裏手にある山を歩くのは、さながらアスレチック気分。木々に結び付けたロープでお手製のブランコもある。50代の筆者が幼少期に遊んできた原風景とよく似ている。古民家の室内はゆったりとしたスペースで寛げ、学習意欲も高まりそう。代表の平本さんの本業は造船会社の技術者。会社員として勤めながら、主に土日はミライエの活動に取り組む。ミライエの目指すこと。自然にこだわる理由とは? 大人がワクワクしながら行動しよう!とアイデアが無限に湧くという平本さんに、ミライエを案内してもらいながら、横須賀でこの場をつくる意味を語ってもらった。

横須賀でもオルタナティブスクールをつくりたい!
—素敵な古民家ですね。何がきっかけでミライエを始められたのですか?
きっかけは4年くらい前のことです。こんなことをやりたいね!という思いをスタッフ各自が持っていた。私は元々子どもの野球チームに関わっていまして。それがある時、野球に対する考え方や、親も子も何だか変わってきたぞ、と感じた。ひと任せで習い事みたいに捉える点が、これまでの親と違ってきたなと。それで親と子に違う学びの場をつくりたいという思いが、私の中に最初にありました。親子が学べる場所をつくろうと。それで葉山で「ヒミツキチ森学園」というオルタナティブスクールの設立に携わりました。
—おお、葉山にあるんですね?「ヒミツキチ森学園」というネーミングもいいですね!「みんなのKICHI」とも語呂も似ていますし。そこはどんな学校で?
北欧の教育方針やプログラムを取り入れた学校です。立ち上げメンバーは4人。僕以外は、保育士、学校の先生などでした。学校に行かない事を選んだ子どもたち、今の学校システムに合わない子どもたちをちょっと違うシステムで教えたいと思ったのです。
2019年に立ち上げてある程度、軌道に乗りました。それで、もう少し違う学校もつくりたくなった。「ヒミツノキチ森学園」で私は今も、その学びの場でジェネラルマネージャーとして関わっています。
—ミライエを立ち上げる前に「ヒミツキチ森学園」をつくられていたのですね。2019年は6年前。コロナ禍になる前年でしたね。
コロナ禍前に立ち上げ、ある程度軌道に乗ってからコロナ禍となった。それで、不登校の子どもが増えました。でも学校に行けない子の行き場がない。最初、理事の池井から学童保育をつくろうという話があって、学童保育とハイブリッドにした居場所もいいねとなった。たまたま根岸で場所が見つかって、ここいいよね~から始まったんです。
—相当歴史のある古民家ですが、借りるのではなく買ったのですか?
空き家活用したいと思い購入しました。
借りるとなると、いろいろ制約があってダメダメ尽くし。それが一番嫌だったのです。
—それはすごい。買われたのは古民家だけではなく山もすべて?
古民家と、蔵と、新しめの家。その新しめの家に住んで、手入れと管理をしています。上の畑と山、6台くらい止められる駐車場にあたる土地もです。いろんなことをここでやっていきたくて。昼間はみんなの居場所、夕方は放課後の居場所として。子ども達には自由に過ごしててほしいとの想いです。勿論、大人もです。



海でも山でも探求し、学べる環境づくりをしたい。
—学校へ行っている子も行っていない子もごちゃまぜで過ごせているんですね。何年生くらいの子どもが来ていますか?
4年生以上の高学年です。居場所は週2回です。放課後の居場所は月から金の週5やっています。土日はイベント開催デー。ノコギリで木を切ったり、焚火をしたり。子どもが火起こしからやります。3月30日(日)もここで桜祭りを開催します。桜の木が一面綺麗に咲くのでお花見しながら音楽ライブもあります。うちはサポーター制度というのがあって、月額1100円でサポーターになると、ここを自由に使えます。会場費は4時間1000円です。※詳しくはこちら。
—なんと!サポーターになります!なります!破格ですね。ご近所だけでなく横須賀市全域の子どもたちのために運営されているのですね。
サポーター制度を活用してもらうと、ここを使ってやりたいことができます。ここまでのアクセスは新大津駅か堀の内駅のどちらか。堀の内駅からのほうが平坦で徒歩15分です。駐車場は隣にコインパーキングがあります。
子どもたちは学校に行きたくなくても、ここにはバスと電車を乗り継ぎしてきます。子ども自身がここに来る価値を見出しています。放課後の居場所利用者は10人、みんなの居場所は10~15人ほど来ています。小学生だけでなく中学生、高校生、大学生、大人もいいですよと呼びかけています。
—ミライエはNPO法人ではなく一般社団法人なんですね?
NPOは制約が多いので。イベントもしますし、レンタルスペース、宿泊サービス、色々やりたいことがNPOの制約に触れてしまう。
ミライエでは利益を循環させる為に一般社団法人を選択しました。株式会社と同じ立ち位置ですね。なので法人税も納めています。無論、利益なんてそんなに出ていませんし、生活の糧にはならないですが、ここに集まる人に還元できればと思っています。
—うちは有限会社として利益を生み続けないとならないのでスタンスは同じですね。不登校については「子どもが行かないと言うので行かせない」という親が増えていることの方が私は心配で。もちろん個々の判断で選択することですが……平本さんはどう思われますか??
不登校が増えているのは、「学校と子ども」「学校と親」「友達関係」など、人との関係性がうまくいかなくなることや、今の学校システムに合わない等があると思います。対、人間関係なのだと思います。学校によって教育の考え方が変わったり、担任や友達によって関係が変わるので、親も子も疲れてしまうのだと思います。
ミライエは、『親も子どもも、安心して過ごせる場所』にしたい。4月13日(日)に不登校の会をここで開きます。そこで集まった声を市政に届けようと思っています。不登校の親同士のつながりから口コミで来てもらいます。横須賀市はいろいろと立ち遅れています。教育後進都市です。せめて横浜市、逗子葉山のレベルに近づけたい。今の横須賀市は子育てしやすい環境ではありません。そうなると若い世代に横須賀には住んでもらえなくなる。横須賀は観光都市に振りすぎて、市民が暮らしやすいとは言えない。福祉や教育にもっと力を入れてほしいですね。
—全国的に見ても横須賀市は不登校や引きこもりはかなり多いと聞いています。でも横浜市は教育委員会からして子どものいじめ隠蔽をしたり不信感しかない。街のイメージ重視で、その実はハコモノ大好きゆえに大赤字。高い税金で市民に負債を背負わせ続けている、かなり酷い自治体です。私は横須賀市のほうがまだマシなんじゃないかと思って移転したのですが(笑)。少子化なのに大切にできないってどういうことなんでしょうね。
もう少し市民のほうを向いた取り組み、子どものための施策を手厚くしてほしい。学校に行かない子どもにも教育の機会をきっちり与えてほしいし、親御さんの心配はやはりそこなんです。
学校に行かない、勉強が遅れる、この子将来どうなるんだろうという不安。でも、どこにいても勉強はできます。今はネットもある、タブレットある。ならそれをもっとオープンに「横須賀市ではどこでも勉強できる環境がある」と掲げてほしい。
ミライエは、海でも山でも学べる環境づくりをしたい。子どもたちに探求を通じた学習。自分が感じて取り組むことを学習につなげたいという思いがあります。




人と人とのつながりをこの場で伝えていきたい。
——いいですね。横須賀は基地(ベース)のイメージが強いけれど「みんなのKICHI」のKICHIはポジティブな意味を込めて作家の表現活動支援を通じて、誰にとってもハッピーな場にしたい。いろんな人の機知を必要とする大吉の吉にしよう!と思っています。私自身はクリエイターの端くれで小説家として生きていきたいんですが、まだ他にもやらなくてはならないミッションがある。表現をすることで人は救われたり、豊かになると思うので「みんなのKICHI」は作家のレンタル棚、レンタルスペースで利益を出して、親子の居場所、相談室は非営利で。どっちもやろうと思っています。ミライエさんみたいに資金をしっかり集めてスタートできるのは素晴らしいなと思います。
想いが一緒の人が集まって運営する。一人だとなかなか厳しいですよね。横須賀は結構そういうのが多く、小さいところがいっぱいあって横のつながりがなかなか無い。一人でがんばるというのは、がんばるほど自分の身を削って運営することになってしまう。仲間が集まってできるといいのだけど、一人でがんばっちゃうと継続するのが難しい。横のつながりもできない。
—平本さんの場合、葉山の「ヒミツノ森学園」が最初にあって、横須賀にもオルタナティブスクールをつくろうと「ミライエ」立ち上げに至った。最初から横須賀で始めなかったのは何か理由が?
最初は横須賀市でやろうとしましたが、色々な問題がありいろいろ探しましたが、場所が見つからなくて、たまたま葉山に良い場所があったのでそちらでスタートしました。葉山のほうが教育に対してアクティブだと思います。今度、中高一貫校になりますし教育に力を入れていますね。
—横須賀にはない。なんだろう、この違いは。お隣なのに。
学校に行かない事を選んだ子ども達の居場所が横須賀には少ない気がします。
もっとハードルを下げて、いつでも来られて、自然豊かな環境で自由に過ごせる場所。そういうところをミライエで実現したいと思います。
ミライエは箱詰めではない所が良いと思います。マンションや戸建てに何十人も詰め込まれている環境がほとんどですが、ここでは違います。
—今の教育に必要なことは何だと思われますか?
人と人のつながり、です。コロナ禍でより希薄になった。オンラインもどんどん普及して人と人の接点がどんどん失われてコミュニケーション能力が落ちてきた。子どもに必要なのは、人と人のつながり。その関係で育むコミュニケーションだと思います。
—何か大切にされている哲学とか座右の銘は?平本さん理系で技術者ですよね。組み立てて構成するのとかお得意で?
工学系です。アイデアはバンバン出ます。とりあえずやってみることですね。やってみて失敗する。そしてまたやる。やらないと始まらない。やってみよう。ですね。
ツリーハウスや露天風呂作ったりしたいんですよ。焚火を利用して足湯は作ったので、露天風呂もできるかなと。大人が楽しまないと子どもも楽しめない。親が笑顔でいれば、子どもも笑顔です。大人がわくわくして楽しそうなことをどんどんやってみたい。
—平本さんの幼少期に、今の活動に結びつくようなことは?
横須賀生まれの横須賀育ち。毎日海や山に行って、何か獲って、それ食べて……をやっていた。自然の中で遊ぶことは今の子にはない。危ない。あれ触っちゃだめ。これもダメって。だからミライエのような場所で自由に遊んでほしい。子どもの頃、海と山があった原風景からここを作れたんです。
—ありがとうございました。

蔵の中には年代物の家具、鶴のはく製とか!ドキドキするレア物があったり、山ではお手製ブランコに乗らせてもらい、キャンプもできる環境にワクワク。取材は雪がチラチラと降りだした朝にお邪魔しました。桜の花が咲く頃は綺麗でしょうね!サポーター会員になってまた近々にお邪魔します。
(2025年3月取材・執筆/マザールあべみちこ)
\\ 取材の一部を音源データでご紹介します //