みんキチVol.03│元教職員だからこそできる多岐にわたる活動。10周年の寄り添い方。


NPO法人こどもの夢サポートセンター
理事長・鈴木明さん

http://support-kodomonoyume.com/new/

1949年生まれ。横須賀生まれの横須賀育ち。國學院大學文学部卒業後、横須賀市内の中学で国語科教諭として6校歴任。柔道部顧問を15年務め、全国大会常連校に導き、神奈川県体育功労賞受賞。生来の植物好きから地域と連携しフラワーラインを実現。管理職になって不登校生徒の居場所づくり、支援に取り組んできた。定年退職後、民間で事業経営を学び、横須賀の子どもたちのためにできることをしたいという思いで2015年にNPOを設立。

観光名所でもある横須賀ポートサイドマーケットのすぐ近くにあるNPO法人こどもの夢サポートセンター。代表理事の鈴木明さんは元中学校の先生。柔道経験なしにもかかわらず柔道部の顧問も15年務められただけでなく全国大会への常連出場校として指導されたとか。校長先生となってからは不登校生徒のためにさまざまな対応策を講じてきた。定年後に同じ教職員仲間と共に2015年、この活動を始められた。植物を育てるのが好きという心優しい先生が今年10周年を迎えるに伴い、新しい企画を考えているという。これからの活動に託す思いを伺いました。

学校現場を知る先生だったからこそ、できるサポートがある。

—HP拝見しましたが、鈴木さんを筆頭に皆さん元々は学校の先生ということで。定年退職後にこうしたNPOを立ち上げられたのですね。

小中学校の学校教職員たちで退職後にNPOをつくりました。これまで横須賀市にお世話になったので、これから学校に課題を持つ子の応援をして恩返しをしたいという思いから10年前に、私とTさんと二人で立ち上げ(Tさんはその後退職)呼びかけました。NPOは最低10名で構成する必要があります。今はスタッフだけでも60~70名、利用者は100名以上。少しずつ事業を拡げてここまで活動してきました。

—多岐にわたる活動に取り組まれていますよね。学習支援だけでなく就労支援、夢カフェなども。

活動には、ふたつの柱があります。一つは子どもの健全育成、もう一つは福祉。私は中学校の国語科教諭から校長職を二校経て定年を迎えました。定年後は野菜販売、スーパーの品出しなども経験。民間企業で60歳から心を鍛えてきた。定時制高校でも4~5年教員を勤めました。それから何名かでNPOをつくろうとなり、2015年こどもの夢サポートセンターを立ちあげました。横須賀市が中心ですが、三浦市や逗子市、横浜市金沢区も活動範囲です。

—100名以上の利用者がおられるということですが、通われているのはどういう背景のあるお子さんですか?

学習支援の対象は、塾に行けない子です。就学援助所帯といいます。生活保護より少し収入は多いけれど、経済的に厳しい家庭で月4~5万の塾代を払うのは大変。昼間の高校(全日制)に進学する、というのを目標にしています。市内でうちのNPOだけでも6か所、全部で60名ほどの生徒が通っています。中3の子の受験勉強をサポートしています。貧困の連鎖を断ち切るために、全日制高校に。今は通信制でもN高とか、他にも良い学校はありますけれど。ほとんどの子が公立に進学します。塾へ行けない子を週1、2回、無料で学習支援。授業は人気があって応援してくれる団体が複数あります。軽食支援、英語と数学の授業の間に10分程度の軽食タイムを挟んで、飲み物やおにぎり、菓子パンなど毎回もらえるのが楽しみで通ってくる子もいます。実際、それは一番子どもが喜ぶことですね。

—勉強だけでなく、おまけがついて、おなかも満たされるんですね。

昭和30,40年代の貧困と違い、今は見た目だけではわかりません。でも実際は会場までバスではなく30分も歩いて来る子はいます。夕食も食べていない子や、給食が命綱とか、そういう実態がたくさんあります。うちが6か所受け持ち、ほかのNPOも3か所されていて市内計9か所で学習支援をしています。中3からでは手遅れなので中2から通えるようにしてほしいと市に申し入れてきたのが受け入れられて、今年10月からは中2から無料で通える塾を用意できるようになります。これは、他の自治体の先駆けになるかと。

10周年を機に、活動の中身充実に注力したい。

—この無料塾は、補助金が自治体から出ているのでしょうか?

必ず自治体でやらなくてはいけない事業があります。それは就労支援です。学習支援はやっていない自治体もありますが、横須賀は学習も就労もします。国の補助と市の補助、割合はありますがどちらもつきます。学習支援、ひきこもりも委託事業です。どちらも国の法律に基づいて補助金が出て、それを市でまとめて、うちのNPOが受けている。スタッフへの給与もしっかりお支払いしています。

—先生を退職後に始めた子どもたちへの支援事業。職歴が安心材料になりますね。

今の採用は、必ずしも教員出身でなくとも中3の学習指導の実力が伴えば雇用しています。一般募集をかけるといろいろな方が応募されてきますが、子ども相手なのでいろいろ難しい問題も起きるものです。そのため口コミで仲間内の紹介でスタッフは探しています。

—10年続けてきた中で、今後改善したいことはありますか?

これまでは事業を拡げてきました。NPOは就労支援ならそれに特化するものですが、うちは学習支援も就労支援もほか活動も幅広くやってきたので、そろそろ数を増やすのはやめて、中身の充実に注力したい。今、NPOの課題は何かというと一般企業や、ほかのNPOとの連携です。連携することでノウハウを共有して、両方がwin-winの形を目指さないとNPO自体が小さくなってしまうし、時代についていけない。うちは福祉大学の先生と連携して5,6年。学生がNPOで研修をしていて、今後は本格的に提携して調査・研究をしていこうと思っています。大学は最先端の福祉、子どもの研究ができている。そうしたノウハウはほしい。ただやっているだけではマンネリになってしまうので、引きこもり一つとってもその手法から、課題の取り組む視点、視座をもらいたい。大学とやっていくことで、それはできると思っていますし、これから大切になります。

—最先端の福祉という表現がありましたが、時代によって課題は変わるということでしょうか?

そうですね。横須賀には36万人のうち、20歳から60歳くらいまで推計3500人くらいひきこもりがいます。18歳以下は不登校という括り。教育委員会は小学1年生から中学3年生まで対象。児童相談所は18歳まで。それ以降になると、どこもケアできる所がない。18歳より上の子がうちの主な対象者。でも本人が助けてと言ってくるのではない。ほとんどが親やきょうだいからのコンタクトです。5080問題、6090問題は社会的ニュースですが、親の年金で食べているが親が死んだらどうなるのか?と不安なんですね。

直接うちにコンタクトされるのもありますが、市の委託を受けているので、全部一回市に返す。市で家族の情報や状況を聞いて就労支援とか、医療ケアなどに振り分けます。年齢的には20,30代が多い。一度社会に出てからのひきこもりもありますが、個々のケースでバラバラ。男性のほうが多いです。

ひきこもりから社会に出るサポートは根気がいる。

—ひきこもりからどのくらいの時間で卒業できるものですか?時間が経てば第三者の介入が絶対必要だろうなと感じます。

親御さんだけでは一歩前へ進めない。親御さんのいる意味は大きいのですが。違う風を入れて何ができるか?です。私たちはいろいろなこと、びっくりされるような支援もしています。2年くらい通ってもその人に会えない場合もある。まず親御さんとのコミュニケーション、精神的フォローが大事。そのうえで本人に提案をします。何を選ぶかは本人次第。その切り口を探すのがうちのスタッフの役目。精神福祉士、元市役所でひきこもり担当だった人、元校長で生徒指導が長くて面倒見がよい人など複数で当たり、2人一組で訪問します。就職率8割で社会に出ています。就労体験もスタッフが付いて一緒にします。お寺の清掃体験なども。

—仕事を斡旋するのでなく、家族以上に伴走されているのですね。

仕事をすることで体力がない状態から立っていられるように。昼夜逆転の生活スタイルが変わっていく。そして最低の社会性として挨拶ができる。そもそも声が小さいので。2週間で就労先が決まる人もいれば、4年通っている人もいる。面接のときに決まってお腹が痛くなったり。面接は崖から落ちるような気持で臨むといいます。一番怖いのは空白期間を聞かれること。行政は相談は受けても、伴走支援はできない。アウトリーチの仕事って細かなフォロー。行政の委託でやらないとなかなか難しい事業です。うちはとても面倒見が良い。

—空白期間とは、ひきこもっていた時間。その自己開示がまだうまくできないということでしょうか?

正直に伝えて、ひきこもりはNGという会社も確かにあります。障がい者枠は企業にありますが、ひきこもりはそれとも違う。病気や障がいではない状態の扱いです。

私は平成16年頃から学校に不登校の教室をつくってほしいという不登校児の対策に取り組んでいました。今は全校に相談室が設置されていますが、当時は異動するたびに各校に先駆けで作りました。まだ不登校へ対する意識が低かったのです。

ある学校では不登校教室に生徒がきても勉強を教える先生がいなくて、地域にビラを配って『国語と数学と英語の3教科を教えられる人がいたら毎日来てくれませんか?』と呼びかけた。それを町内会長あてに配ったら、町内で動いてくれて7名も集まって、それは今でも続いています。部屋をつくっても人員が十分でないのは課題です。

—その子どもたちが20年たって30代半ばとなっている今。学校に必要なことって、何だと思われますか?

小中不登校だった子が、高校進学してもひきこもりになることも。大人のひきこもりの4割弱が小中の不登校。基礎学力がないと漢字が書けない。人に手紙を書いたこともないから、履歴書を書くのも一苦労。小中の不登校がなくならないと、大人のひきこもりもなくならない。不登校対策は非常に大切。20年くらい前はホームスクールという概念もなかった。フリースクールに通うということは、学校と縁を切ることになります。学校の先生は、学校に来られないならフリースクールに行きなさいとは絶対言わない。学校に戻したいわけですから。

私は退職後も母校の小学校でボランティアをしています。校長先生と話したり、学校改革したり。今の現場を知って、活動にいかしています。子どもと一緒にジャム作りをするのは楽しい。この10年でIT化が進んで授業方法が一新された。

60年たった今も思い出しますが「人は環境をつくる。環境は人をつくる」という追浜中学の校長先生のいった言葉が残っています。ひきこもりになった子が、社会に出られるいい環境をつくっていきたい。人との関係性を築けば次の世代も同じようにしてくれる、と思っています。

—ありがとうございました。


ICレコーダーを止めてから、鈴木さんが5人のお子さんのお父さんで、しかも長男さんが高校入学後に不登校体験したことを伺いました。今は立派な音響関係の経営者として社会人となっていること。その本業とは別に副業もまたユニークなことをされていらっしゃるお話。実はそっちがおもしろくてそれを記事にしたいくらいでした(笑)。今度は手づくりジャムも購入しに夢カフェに伺います。(2025年1月取材・執筆/マザールあべみちこ)

取材の一部を音源データでご紹介します