
居場所カフェLUANA主宰/
不登校・ひきこもりサポート団体ケセラセラ主宰
小林怜奈さん
1985年横須賀生まれ、横須賀育ち。勉強は苦手で活発に体を動かす幼少期を経て、高校卒業後は就職、フリーターを経験。その後、結婚・出産。まさか、わが子が不登校になるとは思いもしなかったが講演会などに参加。すべてを受け入れ充電中のわが子達を見守りつつ、地域や不登校・ひきこもりの当事者、保護者の方、一般の方が利用できる居場所カフェLUANAを2024年1月より運営。同時に不登校・ひきこもりサポート団体ケセラセラ主宰。
横須賀市粟田の住宅街の一角にある居場所カフェLUANA。門をくぐり、かわいらしい扉を開けるとお宅のダイニングルームのような親近感。ここは一軒家の離れを改造したカフェ。昨年1月15日にオープンし一人で切り盛りしている小林さんは、不登校・ひきこもり児の二人姉妹を子育て中の現役ママでもある。自身の経験を踏まえて同じような立場の親を支援するため、カフェを立ち上げた。同時に不登校・ひきこもり支援団体ケセラセラを主宰する小林怜奈さんに渦中の当事者として、思いを聞いてみた。(※店舗は2025年4月28日閉店となりました)



小学1年生から始まった学校行き渋り、ひきこもりになって4年。
—お二人のお子様が今、不登校・ひきこもりということで。どういう経緯で不登校が始まったのでしょうか。
最初は長女が不登校・ひきこりに。続いて2歳違いの次女も不登校・ひきこもりに。ひきこもりの定義は半年以上家族以外と接することのない状態のこと。二人とも小学1年生から不登校になりました。長女は8年間、次女は6年間です。
長女は幼稚園の頃、活発でずっと外遊びをして一年中真っ黒に日焼けしているような子でした。不登校になったきっかけは、ちょこちょこでしたが入学式の次の日とか、給食が始まる日とか、何かイベントごとに行き渋りというか、布団をかぶって出てこない時がありました。その都度フォローして登校していましたが、そのうち担任の先生から「場面緘黙症かもしれない」と告げられました。その診断名も最初はわからず、びっくりしたのです。行き渋りながら頑張って通っていたのですが、頭痛や腹痛など体に出てしまい。無理することはないよ、と声をかけていたものの、初めてのことで対応が分からず無理やり引っ張って学校に連れて行くこともありました。母子登校や、行ける時に行くのが続いていましたが、5年くらい前からはずっと家の中にいます。家から出ないスタイルを貫いている。私もそうですが、娘もHSP(Highly Sensitive Person)ハイリー・センシティブ・パーソンで生き辛さを抱えています。
—お母さんが不登校児の当事者で現在も渦中ですが、同じような悩みを抱える親御さんに来てほしいカフェなのですね。
その思いから始めましたが、カフェが住宅街にあるのでもっと気軽に、当事者の立場でなくとも近所の方に利用して頂きたい。8年前に長女の不登校が始まった時、どうすればいいかわからず横浜、逗子、相模原など別の自治体まで出向いて不登校児を育てる親の集いにたくさん参加してきました。どこに行っても皆さんは否定せず、やさしく包み込んでくれる人ばかりでした。私はそこでパワーをつけられたので、横須賀に同じような支援団体を創りたいと思いました。その当時は、まだそうした支援団体が見つけられなかったのですが、この8年でものすごく支援団体も増えてきて変わりました。
—そうだったのですね。コロナ禍を挟んで学校に行けない、あるいは行きたくない事情がある子が生まれてきたのでしょうね。カフェの営業は週2回とか?
月曜日と金曜日、11時から16時の営業です。この店はもともと不登校と発達特性のあるお子さんを育てている方がカフェを営業されていました。その方から「無理することはない」と助言をもらって引き継ぎました。私はこのカフェの他に、放課後等デイサービスでパートも掛け持ちして働いています。カフェは赤字なので、他でしっかり収入を得ないとなりません。でもカフェの物件探しをゼロから始めたわけでなく、もともとあったカフェを引き継いだ形で始めたからこそできていますし、大家さんのご厚意もあり大変ありがたいです。とはいえ経費は光熱費や食材費などいろいろ掛かります。
—カフェのお料理、とてもおいしそうですね。どんなお客さんがいらしてますか?
地域の方が半分以上です。来てほしいのは不登校・ひきこもりの子がいるお母さんが対象ですが、そこは強調せずに、どなたでもお越しくださいと謳っています。なかなかお越しになれない。SNSでは「行きたいです」と興味をもってくれても、ご自身のタイミングで月か金のどちらかにいらしてくだされば、と伝えています。パワーが落ちている親御さんも多い。ここに来るまでにハードルがあると思います。
料理は知り合いのシェフのご厚意でレシピ監修してもらい、レクチャーを受けたお料理を提供していますのでおいしいです。スイーツはシェフお手製を買い取り販売しています。
親ができることは衣食住のみ、子どものやる気を待つ。
—姉妹が家から出られない現状ですが、お母さんはこの先どう考えていますか?
子どもがやりたいように。子どもの人生ですから。家を出たいならそれをサポートしますし、家にいたいならそれをサポートします。親のやれることって、あんまりないと思います。衣食住それだけで、してあげられることが他にない。二人とも家から出られないのですが、次女は昼夜逆転をしていて現在、夕方4時頃起きてきます。昼夜逆転するのは原因がありますし、だからといって全く親と話さないわけではないのです。
—体内時計が逆転しているのですね。海外だと丁度いい生活リズムになるのかな。長女さんは来年になると進学について選択することになりますね。
いろいろな人に高校受験が転機になるといわれます。ターニングポイントとしては中3。その時に動くだろうと。別に動かなくてもいい。選択肢を与えたいと思っていましたが、不登校児の先輩ママさんに、この件を話題にしたら「私なら何も言わない」というお母さんがいました。当時は焦っていて、そういう選択肢がなかったので、そうだった!と原点に戻らされた感じでした。本人が「〇〇したい」というまで待つ。それが念頭にありながら親だと将来を心配してあーだこーだ言ってしまう。今までも親の不安を押し付けていたなと。先輩ママの言葉に響いて、私も子どもが「〇〇したい」と言うまで待つことに徹しようと。先輩ママの考えは、すごく学びになります。
—よく参加されるママランチ会というのは何人くらいお集まりなのですか?
5,6人です。年齢層は高く、お婆ちゃま世代もいらっしゃいます。メンバーを抜けられない事情がある方、ひきこもりを卒業した方も、今ひきこもりの子がいる親御さんも混在して参加されています。
—大人になってからのひきこもりは5080問題など社会的に注目されています。当事者の親御さん同士が交流できるのは大切ですね。
当事者のお母さんはパワーがなくなっているからカフェまでたどり着けないほうが多い。イベントを開催しても固定メンバーは参加されますが、なかなか新規の方が来られない。でも、来られない状況であるのも理解しています。イベントは絶えず続けていきたい。いつかパワーがついたら、ここを訪れて話してくれるかもと。そういう時に来てもらえるカフェ、団体でありたいと思っています。
飲食業は初めての挑戦ですが、受け身な仕事です。いつ、どのくらいお客さんが来るかわからない。でもストックしておかなければならず、来客がゼロかもしれないし、材料は揃えなければならず。完全オーダー制ならロスも削減できますが、そうでないやり方なので赤字です。やってみて初めてわかりました(笑)。



座右の銘は、生きているだけで丸儲け。見守ることに徹したい。
—カフェは1周年を迎えられました。継続して間口を開けておくことで、いつかふらっと当事者に来てほしいですね。今はどんなイベントを?
メインは不登校・ひきこもりの親支援です。学校へ行かないと抜け落ちていることが多い。その一つが歯の検診。歯科医と連携して検診を受けられるように年に2度企画しています。私自身が当事者の親であることが他の団体にはない強み。いろんな経験をしてきて渦中であるのも。同じような当事者の親が団体を主宰している人も横須賀市内に3か所ほどいらっしゃいます。横のネットワークもあります。
—週2回とはいえ、1周年を迎えられたのは素晴らしいことです。
家賃がかからず、夫の収入もあり、他でもパートをしているので何とかやり繰りして1年。マイナスで事業としては成り立っていませんが、かといって店内が混雑するほど盛況になっても違う。当事者の方にお越しいただいて、落ち着いて話のできる場でありたいと思っています。
—小林さんが考える教育に必要なこととは?
見守ること。口を出さないことです。頼られた時に対応できる能力があればいいと思っています。
—座右の銘は?
生きているだけで丸儲け。うちの団体名は「Que sera sera(ケセラセラ)」。『なるようになるさ』です。カフェの営業が団体の実績となっています。
◆居場所カフェLUANA/不登校・ひきこもりサポート団体ケセラセラ
横須賀市粟田2-34-15(松本邸内) 営業)月と金の11:00~16:00(ラストオーダー15:30)
詳しくはInstagramをご参照ください。https://www.instagram.com/luana.ibashocafe/
—ありがとうございました。

取材後、私と小林さんは同じ誕生日と判明!生まれ年はかなり離れていますが(笑)この偶然にびっくり。お互い強運の星のはず。不登校・ひきこもりの支援団体がこの8年でたくさん生まれたのは、親にとっても子どもにとっても心強いですね。一番苦しんでいるのは動けないでいる子どもかも。いろいろな人がいるように、その時期を卒業するのもさまざまなきっかけがあるはず。カフェを通じて、一つでも多くの脱出事例ができること願っています。
(2025年1月取材・執筆/マザールあべみちこ)
\\ 取材の一部を音源データでご紹介します //