監督はカナダ映画界から、監督への道を掴んだという異色の経歴です。まだ年齢的にも30歳とお若いですが、いつ頃から映画の道へ? |
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沖縄で育ち、小学校時代は漫画家になりたくて「ピヨピヨ物語」という4コマ漫画や小説を書いていて中学校時代は「ピヨピヨ」ていうあだ名でしたよ(笑)。高校時代から娯楽映画を見始め、大学時代に「突貫小僧」という一般の映画サークルに入り、毎週集まって映画の批評をし合うのが楽しかった。作ることに目覚めたのは、大学2年生の時に友達が作っている短編映画の撮影を手伝ったのがきっかけです。観るのと、撮るのとでは、全然違っていて……。観る時は、特に意識しない、例えば人が単に歩いているってだけのシーンでも計算されていて、スクリーンの後ろにはたくさんの人が関わっている。単純ですが、すごいなぁ!と思い、映像作品をつくる難しさと楽しさがわかった。自分だったらどんなストーリーができるのだろう、と。それで映画の道へすすみました。
大学4年生の時にカナダ人のクロード・ガニオン監督の『リバイバルブルース』という作品でカメラ助手をしたとき、映画は、人生の大事なドラマを、再現して見せる芸術だということを感じ、他にはない情熱が長編映画の現場にはあり、とても惹かれました。。
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「アンを探して」のどのシーンも、色がきれいで。美術や小道具なども設定に時間が掛かったのでは? |
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まずロケーションはキャストとならんで映画の顔ですから、日本にはないカナダの空や草原は見せたかったので、こだわりました。例えばメインロケのB&B(Bed
and Breakfast:宿泊と朝食の提供を料金に含み、比較的低価格で利用できる小規模な宿泊施設)の設定。ロケハンを重ね、普通の民家をお借りしました。でも緑と赤土の道を活かすため、家の外壁の黄色を濃くしたかったのに、当初、塗り直しの許可を取るためオーナーに、避けたい色を聞いたところ「黄色だけは嫌だ」と(笑)。どうしようかと美術監督と頭を悩ませていたんですが、完成イメージ写真を見せたときそのお宅のお子さんが「この家カワイイ!」と褒めてくれまして(笑)。その子の一言ですべてスムーズに進めました。
今回、プリンスエドワード島オールロケで、約140シーンを26日間で撮らねばならず、また北米の労働基準に従うため一日の労働時間が決められていて時間に追われました。残業は頼めばできますが、時間に追われるとピリピリしてきたり……、ギリギリのスケジュールでした。カナダ人助監督がスケジュールをやりくりし、監督の私はどんなに時間に迫られても納得がいくものを撮ることが仕事でした。でもそれぞれの役割がはっきりして、監督も役者も制作も助手、ドライバーも平等に、それぞれを尊重し合い仕事をするので撮影現場は常にリラックスした雰囲気で、カナダで撮ったことは作品にとっても大きな影響があったと思います。
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私も広告会社に勤めていた時、CM撮影の仕事があったので監督やそれぞれのスタッフが役割をもってプロとして関わっていること、よくわかります。現場の雰囲気は監督の存在が大きい。皆のモチベーションを高く保つのってすごく大変だったのでは? |
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そうですね。結構キャストが多かったので(笑)。それとキャストに関してはすごくこだわりました。よく日本を舞台にした映画で日本を知らない外国の方が撮ってたりすると、「こんな日本人いない!」という映画、ありますよね。やっぱり日本人だけではなく、カナダ人も登場するのでカナダ人の観客がみて「えーっ!」と引く部分があると嫌だな〜と。セリフのあるキャストは全員私が審査しました。全員にカメラを回して、それこそメインキャストのオーディションと変わりない意気込みで(笑)。
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現場ではすべて英語でのコミュニケーションで、何かハンディを感じませんでしたか? |
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大学では一応、英文学科を卒業していますが、師匠にはウソでしょう?!
といわれます(笑)。大学時代は映画制作中心で勉強は真面目にしていなくて。それでも脚本を書いてますから、メインスタッフには片言の英語ですが伝えたいことを必死に説明し、ほとんどハンディなく過ごせました。もしかしたら、カナダ人は、聞き上手が多いんだと思います。こちらが何か伝えようとすると「なになに?」と耳を傾けてくれる。人を包み込む空気がある、と感じます。
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それって宮平監督が作りだしている空気感というか、同じ人を引き寄せている気もします。現場でのこだわり、結構粘る性格とお聞きしていますが、どんなふうに初の長編作品に取り組んでこられました?
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監督の型にはめるのではなく、相手とのセッションで思いがけないほど素晴らしいことになるのを「マジカルモーメント」とガニオン師匠はいっているのですが、私も、俳優さんに細かく指示することなく臨みました。俳優さんは脚本を読んでいるので、まずは俳優さん達がどう演じるのかやらせてみてディスカッションしながら、彼らのもち味を引き出したつもりです。
準備期間も少なく撮影前の脚本読み合わせもほとんどできなかったのですが、リハーサルをしながら本番に臨んだので、俳優さん達も、型にはまって完璧に演じるのではなく、フレッシュな状態で臨めて、逆に良かったのではと思います。
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どの役柄も、役者さんがはまり役ばかり。特にロザンナさんは素晴らしかった。
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実はロザンナさんは70年代を10年間日本で過ごしたガニオン師匠からの提案でしたが、実際お会いしてみても、映画初出演とは思えない存在感がありました。舞台慣れしているせいか腹が据わっていて、カメラ前では本当に花が咲いたようにフォトジェニック。これまで映画に出演しなかったのが勿体ないぐらいの存在感を発揮しています。
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他の女優さんだったらどうだったかなぁ?と想像しても、やはり違う。ロザンナさんでなくちゃダメだなと。声とか容姿だけじゃなくて、彼女の生き方そのものが役柄で表れているというか。
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カナダは、フレンチ系カナダ人、コリアン系カナダ人、イタリア系カナダ人…という感じで様々なバックグラウンドをもった人たちが集まっていて、ロザンナさんが演じるマリは移民の国・カナダのおおらかさを説明抜きで体現してくれたと思います。でもそれ以外にも、ロザンナさんに脚本を渡すと同時に「泣かない」(講談社)というロザンナさんの自伝のゲラを読ませてもらったんですが、ビックリするほど今回演じてもらうマリの半生と似ていて、ストーリーとも重なっていた。でも私は声を大にして、ロザンナさんの「泣かない」は脚本を書いた後に、読んだのです!と言いたいです(笑)。
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ほんとに奇遇ですよね。ところでモントリオールご在住とのことで。今は映画のプロモーションのために来日中ですね。日本でなく、東京でもなく、どうしてモントリオールへ?
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もともとは、私がモントリオールを選んだという感じではなく、仕事の都合上ガニオン師匠について働いた場所がモントリオールでした。いろんな人種がいるのはNYと似ていてあちらは「サラダボール」と呼ぶそうですが、モントリオールの場合は「モザイク」。それぞれの民族がそれぞれの文化や背景を尊重し、誇りをもって生きている。住んでいる日本人は少ないですが70年代頃に比べたら増えたようです。日本の食材とかも結構普通に買えますよ。また、不必要な家具などが、よく道ばたに置かれていて、それを欲しい人が拾ってまた使っていく。夏は週末家の前でバザーをやったり……そういうことが恥ずかしいことでも何でもなく、当たり前に行なわれている都市。それに不思議と、私の生まれ故郷沖縄と、どこか似ていて、とっても住み心地がいいです。
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エコな暮らし方ですね。それにしても30歳という若さでこの作品を撮ったのはやっぱりすごいことです。年齢には関係ないといっても、年を重ねて好きなことをすることはできても、30歳くらいだと紆余曲折ある時代のように思っていましたので。
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もし私が高校時代にアンを読んでたり、また日本で映画の仕事を続けていたら違うテーマでデビューしたかもしれないし、そもそも監督にならなかったかもしれない。映画のボディコピーにもなっていますが、20代後半に「人生を変えた本」に出会えた……それが『赤毛のアン』なんです。カナダに来て映画監督のガニオン夫妻に映画人として学び育ててもらい、その時に読んだからよりいっそう、心に沁みるものがあったのだと思う。「赤毛のアン」という作品のよさを伝えたい。アンのスピリットは今の時代、大切なことなんじゃないかと思ったのが映画にしたかったきっかけです。強烈に伝えたいテーマを「赤毛のアン」からもらった私は、本当に幸運です。
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私はこの作品に出てくる物語すべてに女性の人生が詰まっているように感じました。そういう物語のもっていきかたにも感動しました。
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ユリプロデューサーと共に、脚本には2年間費やしましたが、はじめはどうしても「赤毛のアン」のコピーになり苦労しました。あるとき、自分の人生を振り返って「アンのような人たち」がたくさんいることに気づき、突破口が開けた気がしました。ときにトラブルメーカーだけど、憎めなく、好奇心があって自由に生きている人たち...「赤毛のアン」ってたくさんいるなぁと思って。壁にぶちあたりながらも、憧れや好きなことを大事にする人は、年を重ねるごとに輝いてみえる。子ども時代の感動する心や想像力を大切にしながら大人になった人たちを描くことで、誰の中にもアンはいること、そして、年齢を重ねることって素敵なこと。映画を観た人が、自分の中に「アンの心」を見つけてもらえたら、うれしいです。
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ありがとうございました。
話すほど豊かな気持ちになれる宮平貴子監督。なんてチャーミングな方でしょう!お若いのに、たくさんのポケットをお持ちなんだなぁ〜と感慨ひとしおでした。英語堪能で優秀な人なら他にもいるかもしれませんが、この作品はやはり「人生を変えた一冊」に出会えた人だからこそ、成し遂げられた大作なのでしょう。さて、私にとっての一冊は、沢木耕太郎さんの「深夜特急」。いつまでも旅の気分で過ごしています。
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