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【KAKERUインタビュー No.63】

この時代さまざまな病気や障害がありますが、「HIV感染」と聞いて、あなたは自分には関係ないと思いますか?2007年度の厚生労働省の資料では、国内で報告された新規HIV感染者の数が1082人。初めて1000人を突破してしまいました。今こうしている間にも、HIV感染者の数は増えているかもしれません。それは、一部のごく限られた人の病気ではなく、生きている限り誰にでも起こりうるものなのです。今回、社会福祉法人『はばたき福祉事業団』から「HIV感染者の就労支援」の啓蒙を目的とした冊子制作のお仕事をご依頼いただきました。その仕事を通じ、まったく自分の無知さと勉強不足を知る機会となりました。これから子どもを育てる立場の人をはじめ、親の介護で病院に行かねばならない方にもぜひ考えていただきたい問題です。理事長の大平勝美さん、事務局長の柿沼章子さんのお二人に、HIV感染者の支援と冊子に込めた想いをお聞きしました。

生活研究家・消費生活アドバイザー阿部絢子 大平勝美【Katsumi Ohira】
社会福祉事業団「はばたき福祉事業団」理事長
1949年、東京生まれ。社会福祉法人はばたき福祉事業団理事長。HIV/AIDSの問題に取り組む一方、薬害HIV被害の原因の一つでもあった血液の国内自給のために安全で安定した献血推進に力をそそぐ。

柿沼章子【Akiko Kakinuma】
社会福祉事業団「はばたき福祉事業団」事務局長
1968年埼玉県生まれ。企業、幼児教育職を経て、2003年よりはばたき福祉事業団に従事。HIV感染者の支援の中でも啓蒙教育に力をいれており、若年層、特に幼少期の教育プログラムを計画中。また、血友病に関する絵本『こんなときどうする?』や血液の大切さ、人との助け合いをテーマにした『ぼくの血 みんなの血』を企画制作。それらは日本語だけでなく英語、スペイン語、中国語、韓国語、タイ語等に翻訳されている。海外との協力、支援も行っている。
 
 
今回のお仕事を通じてHIV感染のことを、たくさん学びました。この冊子を通じて一番メッセージしたかったことはどんなことですか。
 

HIV感染者は就労できる立場でありながら、なかなか企業に就労者と受け止められないから今回こうした冊子を制作しました。わかっているだけでHIV感染者は1万5千人います。普段接している人もHIV感染者かもしれません。でも、HIV感染者だからといって、なぜ避けるのでしょうか。今のような不況であっても、法定雇用率で一定の人数の障害者を雇用することは、企業に義務付けられています。障害があっても、病気があっても一緒に働けるような社会をつくる必要があります。
いろいろな人がいるという事実を受けとめられる社会を目指しています。

 
HIV感染者が障害者として認定されていることを、知らない人が多いと思います。
 

HIV感染者は治療が必要です。しかし、治療をすれば生きていけるのです。みんないろいろなハンディを抱えていると思いますが、HIV感染者には社会的な偏見もあるのではないでしょうか。感染症自体が毛嫌いされている。
だからといって、そのような人たちを排除するだけでは何ら解決ができません。むしろ支えてあげることが必要なのでは。つまり、人を愛し、掬うことです。

 
深いテーマです。この冊子では、HIV感染者で元気にバリバリ働く人のインタビューも掲載しています。障害者手帳をお持ちですが、それだけでなく、人としてとても魅力的な方だから企業でも活躍できるように感じました。
 
仕事をしないと生活意欲がでない、だから仕事もできなくなる。悪循環に陥ってしまいます。生きていくためには労働しなければならない。経済的な自立と、精神的な安定につながります。
 
世界中でHIV感染、エイズの問題はあります。たとえばこの病気に対する欧米と日本の違いは、ございますか。
 

アメリカは大統領が所信表明でHIVやエイズについても語ります。世界の三大病「エイズ、マラリア、結核」を減らしていこうという気流がある。一方で日本の首相の所信表明には、HIVやエイズの話題はまったく触れません。軽視しているようにも思います。性感染症の問題は、手をこまねいていられないことなのに、です。

 
日本はまだずいぶん意識が薄いのですね。これから、はばたき福祉事業団としてはどのようにHIV感染者に貢献されたいとお考えですか。
 

治療が必要な病気なので、これまではウイルスを押えていくための医療に専念してきましたが、これからはHIV感染者の生活はどうなんだろう?と当事者の視点にたって、支援しています。一方でこうした問題は、幼少期からの教育が必要と感じています。
自分の健康を守ること。そして人の健康に危害を与えてはならないこと。自分の健康が大切なのと同じように、人の健康をも考えること。大切な人にHIV感染をさせていいのか、と。そんなふうに本能的に感じる「感性」を育ててほしい。

 
家庭での教育が、そうした愛情や感性を育むのかもしれませんね。
 

人の育てられ方は、大切なポイントです。
人に大切に育てられると、やはり自分も他人のことを大切にします。それが、
病気への寛容さにもつながるのではないでしょうか。

 
寛容さ、というのは今の日本で大人にも欠けています。子どもは大人を映す鏡ですよね。たとえば本が一冊もない家庭では、本好きな子が育たないように。日本の社会は、どんなふうに変わっていくべきでしょうか。
 

一言でいうと、「やさしい社会へ」。そうなるためには、家庭間のやさしさが大切でしょうね。人と関わり、つながりをもつことでやさしさは生まれます。また、アメリカも競争社会だったのが、少しずつ変わってきました。突っ張っている、構えていると物事うまく進みません。アメリカでは「ごめんなさい(I'm sorry.)」という言葉をなかなか発しないと言われてきましたが、今は病院内での医療従事者が積極的にいうようになりました。感情を和らげるために使うのです。

ですから、「構えない社会へ」ということでしょうか。会社のイメージ、会社の不利益になると考えて、「人」を見ない企業が多い。HIV感染者で働く意欲のある人はたくさんいます。保身にならず、もっと「人」を見てほしいですね。HIV感染者をどうすれば企業の一員として活用できるか?を考えてほしいのです。

 
ありがとうございました。
障害者手帳を持っている方は、目に見えない、外見からだけではわからない障害をお持ちの方もたくさんいらっしゃいます。ふだんからさまざまなことに偏見をもたず、当事者の立場にたって、もしくは当事者の方とつながって話してみると、自分がいかに「情報」に疎かったのかがわかります。 今回の冊子制作のために、HIV感染者である当事者の方々にも取材をさせていただき、たくさん生きるエネルギーをもらいました。 病気であっても、生きていかないとならない。生きるということは、働くことなんだと。正直に語って頂けて本当にありがとうございました。
私たち一人ひとりがこういう問題を大切にしていけますように。
 

HIV感染者も、いっしょに働ける仲間なんだ!と理解してもらうために作成した2種類です。「当事者編」「企業編」。表紙の絵は、絵本作家の山本祐司さんに描いていただきました。

イメージフォトのモデルとなってくれたのは、俳優・雲水の樋口星太郎くん。表紙をめくるとすぐ目に飛び込むコンセプトページを飾ってくれました。

障害者手帳をもっと使って、社会で活躍してほしい。そんな想いをこめています。

「ぼくの血 みんなの血」(絵:石井聖岳、文:かきぬまあいこ、田中尚人)親子で「血液と献血」について 楽しみながら学ぶことのできる絵本。

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