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【KAKERUインタビュー No.53】

子連れで海外旅行を楽しむ術を伝道する、イラストレーター&エッセイストの森優子さん。かくいう私も、息子が2歳になってから独身時代から好きだった山登りに連れて行くゴーイング・マイ・ウエイ母として継続中。毎度違う楽しみはあれど体力的には毎回、限界へ挑戦!な旅。森さんの場合は、娘さんとの子連れ海外旅行を「日本のかあちゃん代表選手として」実験し続けてきたというパワーの持ち主。とにかく森さんの描くイラストと添え書きが楽しくて、ゲラゲラ笑いつつフームと深く納得したり。旅のみならず、家事や料理についても造詣が深い森さんですが、今回のKAKERUインタビューでは特に「子連れ旅行」にフォーカスしてお話しいただきました。子連れ旅を通じて訴求したいこととは…?? をお聞きしてみました。

森優子【Yuko Mori】 森優子【Yuko Mori】

イラストレーター兼エッセイスト

1967年大阪府堺市生まれ。大阪芸術大学卒。学生時代、サハラ砂漠を歩いているときに出会った人物からスカウトされて上京、ガイドブックの編集事務所に入社。93年独立、イラストを含めた執筆活動をスタート。「旅ぢから」(幻冬舎)、「旅のそなた!」(旅行人)、「東南アジア ガハハ料理ノート」(晶文社)、ほか著書多数。「女性のためのトラブル知らずの海外旅行術」(晶文社)は韓国・台湾でも翻訳出版された。最新刊はパソコン配信の電子コミック「旅くらげゆらゆら」(講談社)
小6の娘+夫と東京在住。現在は「世界各地から近所の商店街まで、とにかくこれは買ってよかった〜って思うモノだけをひたすら絶賛する本」を執筆中。「日本人を一人でも多く、うっかり旅立たせる」のがライフワーク。

 
森さんは家事や料理の書籍も出されていますが、今日は「子連れ旅」にフォーカスしたインタビューということで。そもそも独身時代から旅が好きだったとか?
 

13歳の頃、初めて家族で香港旅行をして、人の暮らしや熱気に感動したのが始まり。旅は好きでしたが、私って案外見た目と違って慎重派。石橋を叩いて叩いてやっと渡るタイプなんです。子連れだと尚更そうでいろいろ心配で、最悪なケースをイメージします。1年に1度、やっと時間とお金を作って行く。その国の良さをすべて知り尽くすつもりで、遊びに行くからには私たちを楽しませてほしい!と願って、一生懸命になっているの。すると、旅の神様は味方するし、私って旅の神様に愛されている、と思います。

何でも一生懸命にやっていると神様は味方すると思いますね。なぜ子連れ旅行をしたいと思ったのですか?
 

子どもを産んだ友達が、「もう私の楽しみは、この子がどの幼稚園に行くかだけだなぁ」とつぶやいたのがきっかけでした。本当にそうなのか?と考えるきっかけになったんですね。子どもが産まれてそれだけが楽しみになってしまうなんて、何か悲しい。そんなことはないし、もっと親子で楽しみを共有できる!と思って。それで、そうじゃないんだよってことを証明するために、子連れ旅行を実験し始めたんですね。娘が生後7か月の時に家族でハワイ旅行をしたのが最初。そもそも大手旅行会社のパックツアーって本当に安全なのか?という疑問もあったし、それを検証してみようと。

 
出産して、子どものことだけになってしまうお母さんって、日本ではすごく多いですよね。働きたくても働けない環境がそうなってしまうのかな。私は産後2か月で職場に戻らざるを得なかったので、幸か不幸か子どもに夢を託すような生き方はせずにきましたが、森さんの場合は産後どんな変化がありましたか?
 

産んでから、さらに心配症になりました(笑)。旅先で子どもが熱を出したら、紙おむつが替えられるのか、そもそも子どもが本当に楽しめる場所なのか。なにごともあきらめたくないんです。でも、「子どもが小さいうちは旅行なんて無理」と、はなっからあきらめている人には、「あのさ、あきらめるのちょっと待った」というエールを。逆に、「ハワイもグアムも、赤ちゃん連れてみんな行ってるじゃん」となめてかかっている人には、「ちょっとちょっと、なめんほうがええでー」という警告を。それを発信していくのが私の役割だー、なんて、ちょっと思ってます。

 
子連れ旅の心得とか、おすすめの国や旅テーマはありますか?
 

子連れ旅は「おもいっきりスケジュールに余裕をもつ」のがポイント。とにかく無理は禁物です。無理がないことが、けっきょくは楽しい充実した旅をもたらしてくれます。スケジュールはほぼ空白にして、のんびりできる場所がいい。個人的には「親が二度目に訪れる土地」がおすすめ。土地勘や、現地の様子がわかっているので、よけいな取り越し苦労や油断がなくなります。 せっかくだからあちこち観光しなきゃ損、という欲望も、二回目ならおさえられます。

かつて留学していた人はホストファミリーに会いに行くとか、海外駐在の友人をたずねるのもいいかも。「赤毛のアン」のセントトーマス島へ、とか。イギリスへトーマスのふるさとへ行くとか。テーマのある旅もいいですね。ただし、懸念点があったら、あきらめることは肝心。うちの近所に、ヨーロッパ鉄道旅行をバックパック背負っていってきた父子がいて(彼はその旅のために会社を辞めコンビニ経営に転換した)小三の息子は、父親が片言の英語や現地の言葉で交渉したりコミュニケーションをとってるふだんとちがう姿が、かっこいいって思ったらしい。失敗したり焦ったりしてる父を、自分も助けなきゃって思ったこともあるとかで。逆に、父も息子を「おっ」と頼もしく思えたシーンが数々あったらしいです。

 
森さんがこれまで海外に子連れ旅行をされて、ルールとか鉄則にされていることは?
 

「子どもは迷惑とトラブルの塊だ!」という自覚をまず親がもつこと。必ず熱を出し、ぐずり、泣くものだと考えるのです。最悪の状況をまず想定しておけば、事前に対策が練れるし心構えもできているのでトラブルのダメージは最小限におさえられます。「結局、なんにもおこらなかったね」ということになればハッピー倍増です。同時に「子どもは迷惑をかけたっていいのだ!」という開き直ることもポイントかな。

これまでは、 @ハワイ(7か月)Aフィジー(1歳7か月) Bグアム(1歳8か月)Cシンガポール(2歳1か月)Dオーストラリア(2歳3か月) Eインド(3歳)Fスイス(5歳)Gタイ(7歳)Hインド(9歳)と各国を旅してきました。次回は来春、Iセルビア+トルコ(12歳)→母子で来年2月に予定中。 小学校を卒業したら春には中学生。 母と子の蜜月期にひとくぎり。ひとつの季節を卒業する「卒業旅行」という気持ちで企画。 セルビアで母親が出会ったたくさんの人々の家を訪ねる、セルビアからトルコまでバルカン特急で列車旅をする予定です。
 
どの国に行かれても満喫されてきて、すごいですよね。そもそも、どうして子連れ旅行をお勧めしているのでしょう?
 

子どもと旅行できるのって実は限定期間。旅先で集中して過ごす親子の時間は、みっちり濃い時間。うちの娘も12歳。すっかり成長して「娘との2学期が終わる」という心境です。暮らしの中で、何か目標をもつとはりが出るし、ワクワクするし楽しい。たとえばお金を節約する。子どもが寝たあとにインターネットや本で調べ物をする。ニュースが気になりだす。ちょっと言葉ぐらい覚えようかとか、なにを着ていこうかなとか、どんなものが必要かしらとか。目標をもつ充実感や楽しさがそこにある。子連れでの旅行は、誰にとっても「新たな挑戦」になるはず。

 
確かに!私も山登りに息子を連れていって、小さな頃はドキドキすることばかりでしたが、今じゃあ独身時代だったら気付かなかった山の歩き方があることを知れてよかったな〜って思います。私の場合はさっさと結婚を解消したのもあって、自分一人じゃダメかも……って思いをかき消したかったから子連れで登りだしたのもあるかな。「父親がいなくても、立派に育てるぜ!」みたいな(笑)。結果的には、子連れ登山で「一人じゃダメじゃん」って気付かされましたけど!
 

子どものいる生活は、それだけで驚きや感動に満ちているものだから、旅に出なくちゃ、みんなが旅に出るべきと言いたいわけじゃないんです。でも、「子連れで旅行」という選択肢や可能性が、ひとつあっていいなと思うのであります。根拠なくあきらめている人がいるんじゃないか?私自身がまずそうだったから。妊娠中から「もう子どもが大きくなるまで旅行には行けないんだ」と思いこんでいたから。

でも、はて、本当にそうなのかな、あきらめるならちゃんと調べて納得してからあきらめるのでもいいんじゃないかと思った。そして行ってみたら、子連れ旅は本当におもしろかった。自分が独身時代にはできなかった旅。見えなかったものばっかり。「子連れ」という特長はマイナスではなくて、別種の体験や視野を新たに与えてくれるとつくづく。子どもがいると、ちやほやしてもらえるというのも、日本で育児疲れしてたまったストレスに最高にききますしね〜。とにかく子連れ旅は子どもを授かった人間の特権です。

 
娘と息子の違いがあるかもしれませんね。うちは男の子で、どうも母親のことがうざくて仕方ない時期に差し掛かっていて、もう私と一緒の時間よりも、さみしいけれど外の世界へ旅立たせることのほうが多くなってきていますが。子連れ旅の効果効能というのは……??
 

私はいくつかの子連れ旅を経験した今、「子連れ旅はおもしろい!思い切って行ってよかった」と思っています。背丈を刻んだ柱を眺めるように、それぞれの旅が愛しい。私の場合、子連れ旅行に行きたいっという目標をもったことで、
*夫に優しくなった
*姑や舅を心配させたらあかん、という気持ちから安全対策にも説明にも(いわゆるプレゼンですな)力が入り、結果的に安全+安心して旅を楽しめた。家庭崩壊を招いたらあきませんもんね これ大事
*がんばってお金を貯めようというはりあいになる(がんばって働こうと思える)
*がまんができるようになりましたな〜〜〜

現象としては…
*娘は食べ物の好き嫌いがほとんどない(ダメなのは焼きとりのネギマのネギだけ)→食べ物の好き嫌いが激しいと旅先で不便だからなるべくなんでも食べられるように……という親の陰謀から。
*娘はどの国の料理もわしわし食べる→これはちょっと特殊だと思うけど、わりと小さいころからちょっとずつ異国の料理に慣れるように工夫した。離乳食にもナンプラーを一滴をもる……とか。インドレストランで子ども用インド料理をオーダーして旅行前に練習するとか。ただし外国の子にはOKでも日本の子には免疫がない食べ物もあるので、食べ物については無謀になってはならない。
*娘は乗り物の中で席に座らず立つ。どなたかに席をゆずるのも自然にできる。→旅先で白い目で見られないために……という親の陰謀から、自然に身についた。おかげで娘は日本ではあちこちで「えらいね」と褒められてご満悦。ほんとは当たり前のことなんですが。

私はもともときっちりした人間ではなく、どちらかというとダメ母。おそらく旅行という目的があったおかげでゆるゆるになりすぎなかった、私の場合。「しつけ」「自分の生活態度」「育児哲学」など、自分の座標軸に作用をもたらしてくれた。やっぱりなんたって、ハレとケのめりはりがあるのはいい。子連れ旅はええよ〜〜。

 

やっぱり子どもは娘に限る!!(笑)精神的な成長度がずいぶん違いますね。うちはくだらないことで毎日体当たりされて、痛い思いばかり。山へ登るのは、親のありがたみを身をもって知ってほしいという目論見もあるんですが。山での一瞬は仲良し親子でも、下界へ降りればまた元の黙阿弥。「余裕があるのね〜」なんて周囲の声はありませんか?

 
「子連れ旅は贅沢ではないか?」実はこれが、いちばん最初に私が考えた点。海外旅行はなんだかんだで高くつく。それに、よくわからない小さいころに海外や飛行機や異文化を経験させることが、彼女にとっての「感動」を薄めるんじゃないかとも思った。私は最初の13歳のときの香港に大感激したから、あんまり小さいころから慣れてしまうとあの感動や憧れみたいなものを娘から奪うんじゃないかと思ったので、かなり考えました。
でも、「大きくなってから得る新鮮な感動も、大事。でも、生の世界を親といっしょに体験するほうをとろう」って割り切った。
贅沢については、「身分不相応な贅沢はあかん」という感性をまず親がもてば大丈夫やろと考えたんですね。
 
では最後に、「子連れ旅」を広めることで世の中のお母さんたちに、どうなってほしいとお考えですか?
 

「子連れでは無理」というあきらめや先入観を、まずはとりのぞいて、検討してみてほしいです。それぞれが迷ったりあきらめたりすればいい。国際社会についての勉強ももちろん大事。「全人類に愛を」と叫ぶのも、大切なことにちがいない。でも、誰かたった一人のことを心配したり。「あんなにうまい焼きとりがある国はすごい」と思ったり。とにかく、気になるものができる。そういうことが、じつはすごく、個人単位ってところではビシビシ効いてたりするでしょう。

娘はあちこちで抱っこしてもらった。私が一人で行っても、誰もだっこなんかしてくれませんからね。抱っこしてもらったってのはすごいことやと思う。写真アルバムの中に残ってる、抱っこしてくれたおばちゃん。そのおばちゃんのことなんかどうでもいいと思うことはないだろうなと。それ以上でも以下でもないんだけど、そのただひとつのことが、すごく大事な気がしてます。 そのうち、受験だ、介護だ、恋人ができた、友だちと遊んでるほうがいい、家族が病気だ、反抗期だって、いろいろでてくる。その前の、子どもが親を頼りにしてイチャイチャできる蜜月期は貴重で、意外と短い。あっというまにその季節は通りすぎてしまう。満喫せな損やなと思います。子連れ旅行は期間限定のお楽しみなんですわ。

 
ありがとうございました!
文字から話してる熱気、伝わりましたか?森さんのお宅は、まるで分厚い本とかグツグツ煮込んだ鍋のよう。具だくさんで、博学で、あったかさに溢れてます。大阪人の文化なのかなぁ。人との密な関わり、誰かの世話をみたりみられたり、昭和の時代にあったはずの人間関係を子連れ海外旅行では再現しているようにも感じました。取材時間の中ではまとめきれないほどの情報量を、森さんすぐにメールでまとめて送ってくださり、ありがとう!本当に子連れ旅行の良さ、よくわかりましたよ。次行くトルコでのおもしろい旅話、こんど聞かせてください。
 

「旅ぢから」(幻冬舎)
海外旅行をしくじらないための笑えて使える実用旅ガイド。

「旅のそなた」(旅行人)
世界にはこんな人が生きている!怒涛のイラストレーター森優子が描く涙と爆笑の実録イラスト・ドキュメント。

なんと1年生の時に描いたという娘さんの絵。のびのびしてて、バランス感覚もバッチリな「ひひんこ」。

娘が5歳のとき、バックパックを背負ってスイスを母子ふたり旅。「アルプスの少女ハイジ」の世界を満喫すべく農家にファームステイ。あてがわれた寝床は干し草小屋。憧れの干し草のベッドで大はしゃぎ。

インド・ヒマラヤの標高2000メートルの村の幼稚園にて、100円ショップで買って持っていったシャボン玉セットで子どもたちのご機嫌をとる娘(当時9歳)。幼稚園の庭には牛がいた・・・・というか、牛を飼ってる庭に幼稚園があった。

インド・ヒマラヤの標高2000メートルの村の幼稚園。9歳の娘と二人、日本代表としてがんばって「かえるの歌」と、あみんの「待つわ」を合唱。子どもたちの反応は「・・・・・・・・」(笑) 

インド・ヒマラヤの標高2000メートルの村にて、お寺の行事にまぜてもらって、村の人たちと地べたでごはんを食べました。本場のカレーが食べ放題、無料。「生まれてから今まででいちばんおいしかった」と娘。

娘が小3のとき。インド・ヒマラヤ。標高4000メートルの山で。気圧は低いがシャボン玉を飛ばしてみたら案外ふつうに飛びました 。

インド・ヒマラヤの村の小学校で、子どもたちに混じって大騒ぎ。

森さん宅はただいま「セルビア祭り」のディスプレイ。ハート型の飾りやリボンが天井から交差する室内。

娘さんの桃子ちゃんがインドへ行って帰国後、学校へプレゼンテーションをした壁新聞。森さんのDNAをばっちり受け継いだ絵と言葉でインドを完全レポート。圧巻です!

セルビアの日刊スポーツ??みたいな新聞の一面を飾った森さん。日本からわざわざ右のミュージシャンのCDを買いに行ったというニュース。世界的な有名人です。

所狭しと並ぶ旅の品。どれも一品もの!宝モノです。

※旅行の写真とキャプションは、森さんより提供。その他写真とキャプションは、あべ担当。

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