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【KAKERUインタビュー No.48】

メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか」(以下「メキハゲ」と省略)という、思わず笑ってしまうタイトルの本をご存じでしょうか?2003年11月に晶文社から刊行された内容を、加筆・修正して2008年5月文藝春秋から文庫として発売されました。著者・明川哲也さんは、ドリアン助川という名で90年代は音楽活動を行い、2000年から2年半ほどNYで生活。帰国後は本格的に作家として創作活動をされています。私が哲也さんの存在に強く惹かれたのは、朝日新聞の相談コーナーの回答コメントがあまりにもおもしろかったから。
なぜこんなふうに伝えることができちゃうんだろう?というような一見ふざけているのに、すごく深い回答。それが、ファンタジーな作品に昇華されると、おもしろいだけでなく琴線にふれる世界が広がっています。どの作品も、根底に流れているのは、どんなことがあっても前をむいて生きる力。号泣しながら読み進んでいると、息子から「本ごときで、なに泣いちゃってんの?」と揶揄されました。そう、本当に『本ごとき』なのですが、それはそれは素晴らしい思想が詰まった一冊です。読み応えのある物語を、もっと多くの方に手にとって読んでいただきたいと思いご紹介させていただきます。「メキハゲ」をはじめ、ユニークなファンタジーをたくさんうみだしている明川哲也さんにインタビューしました。

明川哲也【Tetsuya Akikawa】作家・ミュージャン・詩人 明川哲也【Tetsuya Akikawa】

作家・ミュージャン・詩人
公式ホームページ 「森のくまパン」

1962年生まれ。早稲田大学文学部哲学科卒業。フリーライター、放送作家などを経て90年ドリアン助川の名でロックバンド「叫ぶ詩人の会」を結成。99年に解散後は2000年から02年までニューヨークに在住。帰国後、03年から明川哲也の名で小説を中心とした創作活動を行う。主な著作に「ブーの国」(文藝春秋)「カラスのジョンソン」(講談社)、「オーロラマシーンに乗って」(河出書房新社)、「世界の果てに生まれる光」(角川書店/角川グループパブリッング)など。特技は船釣りと魚料理。現在、歌うピエロのアルルカンとして全国各地でライブ活動も行う。
 
「メキハゲ」で取り上げているテーマがとにかくすごい。まだお読みになっていらっしゃらない方へ補足も含めて申し上げますと、世界各国の自殺率というデータを具体的に挙げて、その国の文化や食について洞察されています。しかも、自殺しかけた中年の料理人タカハシや、頭脳明晰なネズミという登場キャラクターをまじえた不思議な設定で。なぜ、このような物語を書こうと思われたのですか?
 

ぼくが日本を離れてNYで暮らしていた2000年頃、ひょんなことから「日本では自殺者がものすごく増えている」と聞きました。それで、自殺率というキーワードで世界保健機関(WHO)の統計を調べたのが始まりです。
日本人の脆さ、あきらめのはやさ、淡白さ。いってみれば、本当に生きようとしているかどうかという根幹の部分ですが、日本人はその追求からここ何十年か目を背けてきたのではないかと。日本の年間自殺者数3万人以上。自殺率24.0 メキシコの自殺率4.0という数字。この違いは、いったい何なのだろう?と。

ぼくはNYではメキシコ人街に住んでいたので、彼らの生活を間近で探ることができた。土日になると、路上で音楽とダンスのパーティーが始まる。NYは路上のアルコール飲酒は禁止されていますから、ノンアルコールで盛り上がっている。陽気で、結果オーライで、何があっても笑顔を忘れない…といったようなエネルギー溢れるメキシコ人。
まさかと思いながら、彼らが食べる物とその気質に何か因果関係があるのではないか、と気づいた。これは何かが書けるかもしれないと。少なくとも死の囁きを受けている何千人、何万人という人たちへ、まったく違った生き方もあるんだよと伝えたいと感じた。その当時、今のぼくにしか書けないと思い1年くらいかけて執筆しました。

最後の一行まで堪能できる物語でした。この構成は最初からあったものですか?それとも書き進めるうちにこういう展開を思いつかれた?
 

ラストの展開は最初に構想がありました。それで、逆算しながら物語を紡いだのです。
メキシコは、他国にひどいことをされた歴史があります。概ね皆貧しくて、経済的に豊かではない。でも死に急ぐ日本人と違って、殴られても蹴られても微笑みを絶やさない。
悲惨な歴史がありながら、生きるエネルギーに溢れているそこをまず書きたかった。文庫本になるにあたって、加筆するよりも、かなり要らない文章を削りました。

 
ネズミの「国連会議」というシーンもあって、いろんな国のネズミが自国の現状を特徴ある言葉で訴えていてすごくおもしろかった。
 

各国のデータをそのまま載せてもつまらないから。ぼくは読書が苦手な物書きなので(笑)、本をあまり読まない人の気持ちもよくわかるし、本を読むというよりも、誰かそばでお話しをしてくれるような伝え方なら届くのではないかと。

 
「憂鬱の砂嵐」という現象は全国各地に吹き荒れています。そのものズバリな名前ですね。
 

憂鬱な事柄は外から吹いてくるものだと思ったら、実は自分の内側から吹き荒れるものだったという、それが書きたかったんです。

 
4つの宝の設定にした理由は?
 

4つのうち3つはすべてメキシコでは主食です。NYで住んでいた移民街は周りがメキシコ人やプエルトリカンばかりで英語よりスペイン語が飛び交って、食事も毎日セントラル・アメリカのそれでした。おや、これは食材の視点で何かありそうだ、とひらめいた。

 
主人公の料理人タカハシは日本人ですが、さまざまな国のネズミ、メキシコに行ってもその国の人たちと自然に日本語で会話をしていますね。
 

人種よりも、人間は何語でものを考えるか?なんです。いくら英語がぺらぺらでも、思考が日本語だったりすると自分が何人だかわからない。これを「アイデンティティ・クライシス」と言います。結局、語学は勉強すれば身につくと思っていたけれど、コミュニケーションを取ることぐらいならできますが、僕の場合、芯の部分では身につかなかった。思考をまとめて文章を書くなんて、本来の意味では非常に難しいの。

ぼくは、関東で生まれて6歳までこちらにいて、それから関西へ移った。だからどちらもしゃべれるバイリンガル。これもひとつのアイデンティティの崩壊ですが、それでもこんどオール関西弁のライトノベルを出します。小学6年生くらいの少年の性の目覚めをテーマにしたものです。自分のその時代が関西だと、これはもう関西弁しかないわけで。

 
それもおもしろそう。うちの息子に読ませたいです。「メキハゲ」はどんな人に読んでほしいですか?
 

うーん、あまり文学がどうのという難しいことはわかりませんが、単純に物語を読みたいと思っている人に読んでほしいかな。あらゆることがテーマになるし、書いていけばいいのでしょうが、病んでいないと一人前でないみたいな風潮はどうかなと思いますよ。物語は、もっといろいろな世界があっていいですしね。

 
今、バンド活動も積極的にされています。先日ライブに伺いましたが、満員御礼で立ち見の方もたくさんいらして。すごく気持ちよく歌を聞かせていただきました。私は90年代のロックバンド「叫ぶ詩人の会」の哲也さんを知らないのですが、アルルカンのファッションで歌う理由は?
 

アルルカンとの出会いは大きかった。道化にはたくさんの種類があって、皆が知っているのはピエロかもしれませんが、アルルカンと呼ばれる道化師たちがいます。

彼らは詩を朗読したり、物語を歌ったりします。民の夢、人生の皮肉、希望、挫折、痛み。それらを演じてみせるのがアルルカンです。ぼくはこのアルルカンに、自分を重ねています。
幼い頃からの教室パフォーマンス、詩や物語への傾倒、「叫ぶ詩人の会」までの道のり、活字への意欲。こういったあらゆる要素が溶け合い、ひとつの波となり、そのきらめきの中でアルルカンという文字を見せてくれたのです。

 
話せば話すほどいろいろ出てきて話が尽きず、おもしろいです。今後、ラジオ番組のパーソナリティなどをされる予定はないのですか?
 

いつの頃からか、高級車のCMをテレビで流さなくなったでしょう。今、いろいろデータ化することができて、ひどく冷酷な数字ですが、テレビ中心の家庭では高級車は買わないとデータからわかった。もうラジオやテレビにおんぶにだっこの時代ではないんだと思います。もっと独自の手法でプロモートしなければいけない。既成の媒体を使ってではなく、独自のスタイルで何か発信できればそれがいいんじゃないかなと。

 

ありがとうございました。

哲也さんの発する言葉は、本に書かれていることも、お話しされることも、ワクワクする温度があります。これってインターネットの無かった時代、まだ駆け出しのコピーライターをしていた頃の自分を思い出す感覚。人を元気づけて、立ち上がらせてくれるような。なんだろう、そんな不思議な力をもつ言葉をもらえます。もっといろんな場でどんどん作品を発表してほしいです。てか、自分もがんばらないと!と改めて感じた次第です。しょぼしょぼしながら、あきらめずに書いていきますよ!
ちなみに、「あべんとう」のメッセージカードにも哲也さん作のフレーズを掲載させていただいております。10歳の子にも届く言葉集。力をもらえます。

 

小説単行本「花鯛」(文藝春秋)7.29発売

食と環境、国の文化。生きることを改めて考えさせられる一冊。

ジョンを背負って7000メートル/ナッツ/プリズムの記憶 の三編。

オーロラマシーンに乗って/草っ子と蜘蛛/ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼの丘の三編。

カラスと少年の伝説が、ここに紡がれた。“詩人”が謳い上げる、生の交歓。

大仏歩く/嗅ぎ屋プノンペン/影屋の告白/願い屋と幻灯屋 の三編。

しつけなんてきらいだ。それよりもおかあさんにだっこしてもらいたい。せなかやおしりにだきついてぎゅーってしてみたい。朗読会で誰もが泣いた、感動の物語が絵本になりました。

アルルカンの格好で。右が哲也さん、左がMITSUくん

7月5日元住吉でのライブの様子

 

 

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