演劇の道へ進まれた理由というのは何だったのでしょう。何がきっかけとなって舞台女優に? |
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小学6年生の頃、卒業アルバムに10年後の自分について書いたのですが、そこでもう「舞台女優として舞台に立っている」と。3才頃から祖母の入院している病院へお見舞いに行くと、他の患者さんを相手に歌ったり演じたりして拍手を浴びていたので、その喜びが根底にあるのかもしれません。合唱団にも所属していました。アイドルやタレントに憧れていたのとは違って、舞台に立ちたかったんです。 |
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その頃の夢を初志貫徹されていますが、中学校も高校も演劇を選ばれた? |
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中高時代は、地域のアマチュア劇団に所属していました。その中で、演劇を学んだというよりも、小学生から高校生までいるメンバーとの団体生活で、人と人との関わり方を学んだというのは大きかったです。大学は日芸の映画学科演技コースへ進みました。1年生の時に、俳優座の試験を受けて合格。研究生として1年過ごし、それ以降は女優として舞台を踏んできました。 |
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俳優座の試験というのは、どのくらいの方が受けてどんなことをテストされるものなのでしょう? |
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私が受けた年は、900人くらい受験して12人が合格しました。一次試験は筆記、面接、パントマイム、朗読。二次試験はテーマを与えられて演技のテスト。合格しても1年目は研究生、2年目から準劇団員。毎年「査定」がありますし、最終的に劇団員として残る人は一人か二人。舞台に立つ回数も毎年違います。 |
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厳しい世界ですね。聖子さんはニューヨークに生活拠点をうつしていらした時期もおありですが、あちらでは演劇の勉強を? |
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2003年から2006年までNYで過ごしました。演劇と少し離れた生活をしていました。もちろんあちらでミュージカルやオペラ、バレエなど素晴らしい観劇をたくさんみて、文化がそこらじゅうに落ちている街でぜいたくに過ごしました。ただ、NYの生活を経て、俳優座の看板の下で自分が今まで守られてきたことを身をもって感じましたね。NYでは、私はただのアジア系の女性。その分、悔しさも味わいました。NYで過ごした4年間は、何一つ無駄な時間はありませんでした。 |
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女優という仕事のやりがいとは? |
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人生をえぐりだして、自分との闘いをしないといけません。研究員時代の4年間、同期は次々とデビューしていくことに焦りを感じていたこともありました。でも、その時間があったからこそ、自分と向き合うことができた。尊敬する女優の故・杉村春子さんがおっしゃっていたなかで「今の私があるのは、若い頃たくさん時間があったから」という言葉がありました。私にとっても、何一つ無駄な時間ではなくて、自分の引き出しになることばかりでした。時間は流れず、積み重なっていくものです。お客様が演技を見て、心を動かしてくださる。女優はやりがいのある仕事です。 |
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今度の公演を拝見するのが楽しみです。簡単にどんなお話かをご紹介いただけますか。 |
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モーム版「人形の家」といわれる作品です。舞台は1930年代、イギリス。上流社会の奥様の心理が描かれています。夫の浮気が発覚しても落ち着き払っている妻・コンスタンスの妹にあたる役が私です。これまでは、「キス女優」と呼ばれるほど、恋にいきる役が多くて、芝居中いつも誰かと恋をしていました。でも、今回、演出家の高岸未朝に「この役は聖子さんしかいない!」と指名されまして(笑)。なぜなのかは、私にもわかりませんけれど。 |
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沈着冷静でいるコンスタンスを妹から、どんな視線で語るのか、おもしろそうですね。 |
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セリフは表面的ですが、おなかの中で感情が見え隠れする。そのシニカルさはおもしろいです。主人公の結論に納得する人もいれば、わからない人もいると思う。いろんなタイプの人が登場しますから、誰かの役柄に感情移入できるかも。 |
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今夏は、「満州に生きる女性の姿を描いた一人芝居」を東京とニューヨークで公演するなど、新しい試みをされるとか。 |
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はい。一人の女性の過去と現在を描き、日本人にしか伝えられないメッセージを伝えたい。初めて自らプロデュースし、演じます。国が起こしている問題で、傷を負うのはいつも市井の人。そういうものを背負って生きていく人間の物語です。
この一人芝居に関しては、東京とNYで生活をした私だからこそ感じ、日本人の私が世界に向けて発信できるメッセージだと思いました。
今回は、今まで演じる側の私が、初めて自分で舞台をプロデュースします。新しいことを始めるには何でも勇気が必要です。たくさんの壁にぶち当たります。でも、誰でも不可能なことはないのです。たくさんの試練があるとは思いますが、諦めずに成功させるつもりです。6月12日〜15日は東京・下北沢で。7月2日〜15日はニューヨークでの公演。この作品は、いろんな国の人に発信したいです。
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ありがとうございました!
舞台の練習は毎日12時頃から夜9時過ぎまで稽古場で続くそうです。その中で、自分自身の引き出しをあけ、悩み苦しみながら、どんな演技で表現すれば見ている人の心を動かせるかを考えるのでしょう。ものを書く仕事も、うんうん苦しむ時間ばかりです。それでも、やめられない魅力があるわけです。公演チケットは、どの日程ともお席は残りわずか。自分自身を振り返る時間になるかも。ぜひご覧ください。 |
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