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【KAKERUインタビュー No.29】
温和で透明感あふれる人柄、懐かしい友達に会ったようなノスタルジー。田中清代さんの描く絵は、どのページを開いても、撫でてしまいたい衝動に駆られるほど、ふっくらとした温かみを感じます。清代さんと長年お付き合いのある共通の知人を介して、ご本人にお会いした第一印象は、作品から飛び出してきたようなデジャブー感でした。やはり、絵は描く方の人柄をも表しているのですね。清代さんの作品で私が初めて出会ったのは「ねえ だっこして」(金の星社)。一昨年に刊行した絵本ガイドブックである、拙著「赤ちゃん絵本ノート」(マーブルトロン)でも取り上げさせていただきました。作品ごとにそれぞれ味わいが違う、清代さんの作品に根付くテーマを語っていただきました。
田中清代・絵本作家/銅板画家 田中清代【Kiyo Tanaka】 
絵本作家・銅板画家
「オイカカナットの地下室」http://www.oyikakanat.com/jp

1972年生まれ。絵本作家、銅版画家。多摩美術大学絵画科にて油絵と版画を学ぶ。1997年「みずたまのチワワ」(井上荒野/文)の出版以来、絵本を中心に制作。銅版画では、絵本とは違うモノクロの世界を少しずつ発表している。 細々と音楽活動もしており、2006年からユニット「ロロ」にて、山本海と共に作詞・作曲を担当。パートは唄、カンジーラ、ウクレレ、トイピアノ。
*個展 1993年よりほぼ毎年。ギャラリー福山(銀座)、Pinpoint Gallery(青山)など。
*公募展 1995,1996年/ボローニャ絵本原画展(イタリア) 2001、2003年 ブラティスラウ゛ァ絵本原画展(スロウ゛ァキア)
*好きな絵本作家/ロバート・ブライト、エドワード・ゴーリー、その他こどもが喜ぶ本を作る人。
*好きな画家/駒井哲郎、オディロン・ルドン。
*好きな音楽家/スコット・ジョプリン、W.C.ハンディ、ドビュッシー。

 
清代さんの絵は、背景とか描きこんでいらっしゃらない場面でも、なぜか懐かしい香りがします。子どもの頃から、やはり絵がお好きでしたか。
 

小学生時代から絵の仕事をしたいと漠然と思っていました。学校の絵のコンクールみたいのには必ず賞をいただいていましたね。小学2年生の頃、あさりちゃんという漫画のキャラクターを水彩画で描いて先生にあげて喜んでもらったり。5年生の頃は、作文を書かせる先生で、私はその頃、新井素子さんの本が好きで文体を真似てラフに書いていたんですね。しゃべり言葉で。それで「おもしろいやつだ」と思われていたようです。中学生になって、漫画を真似て描いたり、MOEという雑誌を見つけて買って読んだり。

 

ご家庭では、どんなお子さんでしたか。

 
私は、中学生になってすぐに母を癌で亡くしました。7つ上の姉は早くに独立をしましたし、サラリーマンの父が毎日お弁当を作ったり、家事全般を担って育ててくれて。今思うと、どうして仕事をしながらあれほど家事もきちんとできたのでしょうね。父には頭があがりません。
 
思春期の娘にさびしい思いをさせまいと一生懸命だったのでしょうね、お父さん。清代さんの作品に流れるやさしさは、ご自身のそうした経験から発しているのかもしれませんね。大学を卒業されてすぐ作家活動に入られた?
 
大学時代から「絵本創作研究会」に所属して、創作に取り組んでいました。卒業後は社会人にはならず、アルバイトをしながら作品を描いて出版社を回っていましたね。バイトはファーストフード(フライドチキンで有名な某チェーン店)で接客をしていました。あと関東近県のスーパーに派遣されて、新商品販売のマネキンとか。ファーストフードではスピードを求められてプレッシャーを感じました。私には、この仕事は務まらないなーと思っていました。マネキンの仕事では、その地域の人たちの生活に触れることができて楽しかったです、人間観察という意味で(笑)。対人恐怖症傾向にあった自分の性格は、このアルバイトのおかげで改善されました、ずいぶんと。
 
清代さんのイメージですとオーガニックカフェで働いていたような……。ファーストフードの店やスーパーで「いらっしゃいませ!いかがですかぁ〜」と接客されていたのは想像しにくいかも(笑)。ところで、絵本の出版社は作品を持ってたくさん回られました?
 
いえいえ、2社ですね。そのうちの一社、福音館書店からデビュー作を出版させていただきました。営業に回った時は、すぐお仕事に結びつかなかったのですが、同じ会社の別の編集者からお声をかけて頂いて。デビュー作「みずたまのチワワ」(97年・福音館書店)が誕生しました。
 
10年前ですよね。その後、数々の作品を手がけてこられました。
 
月刊誌「こどものとも」「おはなしチャイルド」などの作品や、ビリケン出版で書店売りの絵本を初めて手がけました。それまでは決まった部数のものを作るものでしたのでそれほど感じていませんでしたが、初めて売れるか……という緊張感がうまれましたね。挿絵のお仕事は10冊くらいしています。佐藤さとるさん作の「いってかえって 星から星へ」、「どんぐりあつまれ」など幼年童話の挿絵、松居スーザンさん作の「海辺のおはなし」。 1999年には作と絵を手がけた「みつこととかげ」、その後「おばけがこわい ことこちゃん」や、最近ハードカバーになった「トマトさ ん」など。「ねえ だっこして」は、あえて背景を描きこまずに、空白をいかす描きかたをしました。着色するのに時間が掛かりました。原画を描くのに時間を掛けるほうです。自分でお話を考えるのは最後まで楽しいです。
 
11月に個展をされるアンデルセン童話の挿絵も、これまでの絵本とは違う味わいがあります。どうしてアンデルセンを選ばれたのですか?
 
2005年に『アンデルセン生誕200年祭』を知ったのがきっかけです。 その年の初めに、ピンポイントギャラリーの企画展 (ピンポイントの小さなアンデルセン展)があり、 1枚描いてみたところなかなか好評でしたので、個展(2005年6月と12月)のテーマをアンデルセンに決めました。

それに関連して自伝・伝記を読んだり、アンデルセンの生まれ育ったデンマークを訪ねたりしているうちに、興味のつきない作品、作家だなと思うようになりました。 同じテーマで続けて制作してみると、自分でも色んな発見がありますし、見て頂く方にも続きという感じで、進み具合が見えて面白いかなと思い。 アンデルセン「雪の女王」のお話からイメージを取って15点くらい描きました。すべて読んで浮かんできた場面を描いています。アンデルセンの自伝はとてもおもしろいですから、ぜひ読んでみてください。
 
アンデルセンは変人というか、かなりの心配性で、眠っているうちに死んだと誤解された人の話を聞いて、「死んでいません」と置手紙をして眠るようになったという話もありますよね(笑)。
清代さんの描く絵は、技術的にいうと基礎がしっかりされているというか。いつの時代のどの作品を拝見しても安定しています。人物の描き方にムラがありません。絵本作家で尊敬する方はいらっしゃいますか
 
林明子さんは、リアルな状況、実写的な表現を描ける方ですね。アングルが大胆ですし、凝って考えられているなぁと。子どもの視点で描くことに徹していて、リアルな世界が子どもにとって冒険の場所であることを改めて感じさせてくれるので、すばらしいと思います。

他、 チャールズ・キーピング(イギリス)は、 絵柄の印象が強いのですが、ストーリーも良いです。作家の世界観や登場人物への愛情がよく伝わってくる絵本作家だと思います。
また、ロバート・ブライト(アメリカ) は、もともと書く方の人だったようですが、絵も描いています。お話が面白いです!絵は無駄がなく味があります。 
 
---(一筆御礼)
ありがとうございました。ウクレレ歴9年という清代さん。2年前にご結婚されたお相手の旦那さんも、音楽をライフワークにされていらっしゃるとか。静かに、ずっしりと胸に迫る絵本は、やはり絵の力があってこそです。言葉を生業にしている私からすると、ジェラシーを感じるくらいモヤモヤとした感情をいきいきと表現されている素晴らしい作品ばかり。ぜひ、これから一緒に作品づくりをさせていただきたい絵描きさんです。個展、楽しみにしています!


■個展のお知らせ■

田中清代の絵本展


2007年10月15日(月)〜10月20日(土)  11:00〜19:00  最終日〜17:00

最初の絵本「みずたまのチワワ」から10年!
近作&月刊誌作品の原画(非売)と、「トマトさん」の銅版画による複製原画、小品、グッズ(販売)など展示。 会期中なるべく会場に居らして、本を購入下さった方にサインしてくださるそうです。 マザールの青山事務所もすぐ近所なので 私ものぞきに伺います!

Pinpoint Gallery
〒107-0062 港区南青山5-10-1二葉ビルB1 
Tel.03-3409-8268

田中清代 個展

~H.C. アンデルセン 「雪の女王」より~  おはなしのイメージ・vol.3
2007年11月12日(月)〜11月24日(土)  12:00〜19:00  土曜日のみ18:00まで


2年ぶりの個展は、引き続きアンデルセン。絵本の仕事とはひと味違うイメージをお楽しみください。 版画か、イラストか?という問いにも徐々に答えは出つつあり。そのへんも微妙に…とのこと。

ギャラリー福山
〒104-0061 中央区銀座1-23-4明松ビル303
Tel.03-3564-6363 Fax.03-3564-6366
 

田中清代さんの主な作品
<絵本のお仕事>

おきにいり

(ひさかたチャイルド)
作・絵:田中清代

お魚がたつと人間みたいな?!たむの珍道中に、ニヤリとするお話。

みつこととかげ.

(福音館書店)こどものとも年中向け8月号2006年版 作・絵:田中清代

おばけがこわい ことこちゃん

(ビリケン出版)
作・絵:田中清代

ことこちゃんの怖がる気持ち、わかるな〜と思う人も多いのでは?清代さんの幼児体験からうまれたお話だそう。

いってかえって 星から星へ

(ビリケン出版) 作・佐藤さとる 絵・田中清代

構成がとってもユニークな絵本。作の佐藤さとるさんは、あのコロボックルシリーズの!

トマトさん

(福音館書店) こどものとも年中向き7月号(2002年) こどものとも傑作集(2007年)
作・絵:田中清代

一度みたら忘れられない強烈なインパクト!トマトさん〜。ハードカバーになって登場!

ねえ だっこして

(金の星社)
作・竹下文子 絵・田中清代

主人公はネコ。でも下の子がうまれた上の子の気持ちを代弁しています。あたたかみ溢れる素晴らしい作品。

こどものとも おいかけて

(福音館書店) 2004年10月刊行 380円 (こどものとも年少版11月号)
作・中脇初枝 絵・田中清代

夕焼けの秋の里の日焼けした色と、青紫にくすんで行く夕闇の中にとけていくねこ。こどもたちにとっては、これは冒険の絵本。

みつけたよ さわったよ にわのむし

(福音館書店)
作・ 澤口たまみ 絵・田中清代

お母さんと一緒に植木鉢の下に動くいきものを見つけます。

<挿し絵のお仕事>

どんぐり、あつまれ!

(ポプラ社)
作・松居スーザン 絵・田中清代

海辺に住むちーちゃんに、いろいろな海の話をする漁師の六助じいさん。ちいさな生き物たちが、いきいきと暮らしている海辺には、楽しい、ときに冒険に満ちた歴史があるようです。

どんぐりあつまれ!

(あかね書房)
作・佐藤さとる 絵・田中清代

サッカーがすきな女の子が主人公のお話。5〜7歳向けの幼年童話。

 

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