私は取材を通じて、一番、阿部先生の食品選びとか暮らし方に共感できて、おぉ、これは今日から取り入れてみよう、と考える素敵なアイデアにたくさん出会えたおかげで、環境配慮への関心度が深まりました。先生は理系ご出身ですが、「生活研究家」という肩書きでお仕事されているのは、どのようなことがキッカケになったのでしょうか。 |
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大学の薬学部を卒業して、洗剤メーカーの研究所に勤めました。毎日単調な仕事が苦手で、異動願いをしたら企画室という部署になって、そこで「お掃除相談室」を担当していました。全国各地の店舗へ商品をもって営業と一緒にまわりましてね。そうしているうちに、会社が倒産。それでフリーのライターとなりました。その後、銀座松屋で消費生活アドバイザーが求められていると、すすめてくれる方がいらして35歳の時にこの仕事に就きました。その仕事をしながら、職業訓練校の講師をして60歳が定年なので一昨年退職しました。今は日大の理工学部の講師をしています。
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ということは、先生の実年齢は62歳!うそ〜!って感じですよ。肌ぴかぴかで外見の崩れもありませんし、物事の捉え方とかもお若いです。大学で教鞭をとられているご専門は?
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生活と環境について。環境の歴史にあてはめながら、制定されてきた法律を考察したり。紛糾している水俣病の話なども。 |
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学生たちが社会に出てからどのような形で環境に関わる仕事に就くか楽しみです。今回の新刊は2年がかりの力作とうかがっています。 |
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毎年のホームステイ体験記『「やさしくて小さな暮らし」を自分でつくる―ヨーロッパ流エコライフ』(家の光協会)を読んだ編集者の方から、声を掛けていただき、始末というテーマで書いてほしいと。環境に配慮した過ごし方を、大げさではなく自分でできること、と言い換えています。2年の間、前半の1年間は打ち合わせ期間。後半の1年間は執筆に費やしました。発想の転換をしながら、書き進めました。 |
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「始末」という言葉が、潔くて心地よいですね。自分の身の回りの物を減らしていく。生き様の整理整頓みたいな意味合いもあるように受け取れますね。 |
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人間はいつか死ぬものです。食を大切にしながら、ある程度、身の回りのものを始末しながら暮らしていこうという提案です。無駄なものを始末していけば整理整頓ができ、暮らしがすっきりとします。例えば、エコバックがブームになっていますが、一時のブームでなくて、身につけてほしいことなんです。考え方、捉え方でわざわざ新しくエコバッグを買わなくても、いいわけです。服も食器もたくさんありますけれど、使っていないときの置いておく場所のスペースは限られている。
私ね、数が多くなって入りきらなくなると、新しく入れたい分だけ減らすようにしているんです。近くのリサイクルショップや、家に来てくれた友人知人に「これいらない?」と聞いて、持って帰ってもらうの。使ってくれる人に、使ってもらったほうが物も幸せですしね。身はひとつしかありませんから。それ以外もお掃除する時の雑巾にしたり、使えずに捨ててしまうものは結構少ないです。 |
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先生の暮らし方は、ホームステイで体験したその国のよさに影響を受けていらっしゃいますか。 |
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そうですね。食べること、着ること、ふるいものをいかして住まうこと、木を育てること。すべてを通じて人にやさしくできます。そして、そうした文化から学ぶことができます。例えばポーランドでは、いちごの季節に洗ったいちごをフリーズドライして保存し、冬に食べます。朝、昼、夕方、夜と一日4食も食べる彼らの知恵なのね。
もう一つ、スイスの場合はインテリアが素晴らしいの。小学校を買い取ってリフォームして住んでいる人のお宅を拝見してきました。その国ごとに環境への取り組みは違いますので、ホームステイすると必ず排水とゴミについて見学に行きます。案外、ホームステイ先の人も、そうしたことを知らずに生活をしていたりしますね。ドイツは一番環境についての取り組みが先進的。法律のありかたも違います。そこでは、冷蔵庫の中身や料理のしかたまで、ゴミを出さずに最後まで使い切る心を学びました。 |
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「始末な暮らし」というのは、最後までどう使い切るかを見据えた物選びということもポイントですね。 |
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最後までいかし、使い切るのが始末。現代版エコロジカルな暮らしということです。そのために今持っている物、そして日常の暮らしで食べる食材から、整理整頓することから始めましょう。
例えば、水。高い浄水器をつけてもカートリッジを交換するたびにゴミを出すことになります。だからといってペットボトルを何本も買わなくてもいい。私が実践しているのは、煮沸消毒したお湯を冷ましてから、炭入りのボトルに入れて冷蔵庫で冷やして飲む方法。
野菜にしても、少し割高でもおいしく食べきれるものを選べば、無駄がでません。何でも使い切る精神で、無駄がなくなるし、整理整頓で物を再利用する力をもてるようになります。もったいない!を徹底すると、資源や環境に配慮する気持ちがうまれます。 |
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日本は高度経済成長期を境に、消費して物をたくさん持つことが豊かな生活だと錯覚してしまった。私はペーパードライバーで車をもっていませんが、特に不自由は感じていません。車社会になり一家に一台になったのも、環境的に変化している一因かなと感じています。 |
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消えるものに投資する人のほうが、豊かで文化的です。燃料電池を使ったエコカーなんて作っても、ものすごく高額で作るまでのエネルギーのほうが掛かってしまう。そこまでして車に乗らないといけないの?という感じです。
このままでは、気候変動ではなく、気候破壊。とはいえ環境破壊をストップすることはできないのですから、そのスピードを緩やかにするしかありません。
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本当にそうですね。今年の猛烈な暑さといい、台風の多さといい、虫や鳥の動きといい……おかしいですもん。先生はこれから、どんなことにがんばって活動されたいですか。 |
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がんばらないです(笑)。がんばるというのは、欲の虫につながると思うのです。無欲なまま、チャンスがあればお話をしていきたい。そしてボランティア活動を続けていくことですね。無駄使いをせずにね。
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ありがとうございました。
いつも歯切れよく、美しいたたずまいでいらっしゃる阿部先生。私の漢字名も同じ阿部なので、勝手に親戚縁者のような気分で、先生を慕っています。……しかし、どうして私は整理整頓がへたくそなんでしょう。時間がないことを理由に積み重なったままの書類を尻目に、毎日それが風景のように馴染んできている日常……。これからは環境や資源について考えながら物を選び、無駄のない生き方をしたいです。あああ、「始末な暮らし」を読んで、ちゃんとしなくっちゃ!
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