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【KAKERUインタビュー No.5】
絵本作家でありながら、全国各地を講演で飛び回る日々の宮西達也さん。
今の地位を築くまでの下積み生活は厳しいものだった。超貧乏生活から夢を掴むまで 話してもらった。
宮西さんは作家さんというよりも、どこか牧師さんのような透明感と穏やかさをもつ。作品を創るエネルギーは絶えることなく、29歳のデビュー後20年間に渡って さまざまな名作をうんできた。代表作のひとつ、「おまえうまそうだな」は、私より先に愚息が読んで「おもしろい!」と言った絵本。宮西作品には、根底にやさしさとか思いやりがあふれている。絵本作家の前は、広告会社でグラフィックデザイナーをしていたが、「どうしても絵を描く仕事をしたくて」一念発起し退社。まだ乳飲み子を抱える奥さんの理解と協力もあって、作品づくりに励む。数々の出版社へ自作を売 り込み、ほどなく作品デビュー。しかし、本当に大変なのはデビューするまでではなく、デビュー後のことだった。貧乏していた頃の話を楽しそうに話す姿は、どん底を 知っている人間だけが培った芯の強さを感じる。夢を実現するまでの道のりとこれからのビジョンについて聞いてみた。
宮西 達也(みやにし・たつや)
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、『おまえうま そうだな』(けんぶち絵本の里大賞)(ポプラ社)、『おとうさんはウルトラマン』(け んぶち絵本の里大賞・びばからす賞)、『帰ってきたおとうさんはウルトラマ ン』『パパはウルトラセブン』(ともにけんぶち絵本の里大賞)(以上学習研究社)、 『うんこ』(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)、『大きな絵本にゃーご』(第38 回造本装幀コンクール展読書推進運動協議会賞)、『きょうはなんてうんがいいんだ ろう』(講談社出版文化賞・絵本賞)など多数。夫人との間に二男二女あり。
 

---昼は創作、夜はバイト
生活費捻出のため質屋も使った

10月に『絵本ナビ』での対談インタビューのお仕事で、宮西さんと直接お会いするまでほとんど宮西さんのことは知らなかった。私のイメージでは宮西作品=「ウルトラマンシリーズ」が強かったので、もっと豪快なおじ様をイメージしていた。

しかしながら、絵本作家となってから10年間の苦労話をお聞きして、宮西さんの作品テーマに生きているもの、話したりする言葉の重みはそこに原点があると思った。そういうわけで、お仕事の対談から少し突っ込んでお話を聞きたくて、このKAKERUインタ ビューでもう一度再会してもらうことにした。

「デビュー後の10年間、先が見えなくて何度も不安がよぎりましたよ。でも、自分がやりたいということはしっかり持っていましたから。だから他に何かやろうにも何もできませんし。これでやっていこうという思いで不安は打ち消していましたね。 そっちのほうが大きかったなぁ」

宮西さんのいう10年間は、子どもたち4人が誕生し、育ってきた時間でもある。今は大学3年、大学1年、高校1年、中学1年と教育費だけでも大変にお金が掛かる時期。だが、そこまで育つまでに多大なプロセスがあったのだ。

「とにかくあきらめないでやってきたことでしょうね。カッコ悪いこととか、やっぱりこんなのやめたって思ったら、そこで終わるしかないんですよ。自分のことを信じるしかない。周りの励ましもうれしいけれど、最後は自分の想いを形にできるのは自分しかいないわけですから」

とはいえ、家族6人ともなれば、誰かしら病気になるから毎日生活費が掛かる。貧乏といっても、この日本において昭和初期のような極貧生活を営む人は、今時なかなかお目に掛からない。宮西さんのいうビンボーとは一体どんなものだったのか?

「お金が無いから質屋に身の回りのものを入れに行くんですよ。着物、家電、時計、 ドライヤーなんてものまで持ち込みました。それでも足りないから、銀行のキャッシュカードでおろせない金額を入力するの。124円とか、28円とか半端なね。小銭のためにすごく面倒くさい手続きを踏んで、かき集めて。実家からお米は送ってもらって。電気、ガスは止まりましたね。水道だけはライフラインだから止められなかったけれど。これね、短い期間じゃなくて、ずっと長期に渡ってのことだったの。 1年、2年、3年…と時間がたっても同じでね。保育園へはタダで預けていました (※多くの自治体が経営する保育園は、収入に合わせて月謝が決まるため)」

昼は創作活動を続け、夜は工事や工場でのアルバイトで生活費を稼いできた。どこで その生活が打開できたのだろう。

「作品は創り続けたんですよ。それで時間がたってからですが、『あの作品、よかったんじゃない?』と編集の方に思い出してもらったりして。少しずつオファーが来るようになった。夕食の惣菜の数が一品ずつ増えてゆくような、そんな薄っすらした変化でしたよ。やっと認められだした兆しというのは…」

---「おっぱい」でブレイク
講演では緊張のあまり…

宮西作品の中で最もはじめに注目されたのは「おっぱい」だ。下の子が生まれて、だいすきなお母さんのおっぱいが奪われてしまう(?!)心の葛藤やジェラシーを表現したお話が多くの人の共感を呼んだ。

「ある著名な先生が各地で講演された際に、『おっぱい』はおもしろいと評価してくれて。そのうち『これを描いたのは誰なんだ?』と。そのおかげで知られるようになりました。でもそんな爆発的に売れたとかでなくて、ジワジワと売れるようになった。一つの作品が取り上げられると他の作品も売れるようになったんですよ」

経済的にようやく安定しはじめ、あっという間に車や家を買える立場に。銀行で28円をおろして工面していた時代が、遠い過去のことになりつつあった。気が付けばデビュー後、10年目を迎えていた。

「ものづくりは一人ではできないから、僕は編集者の人との関係を大切にしています。一緒に何か創ることができるのは、出版社の規模ではなく編集者の人柄。作品を創りあげるまでに、色々な苦労が伴うけれど、根底で理解し合えているから良いものが完成する」

絵本の作品を売り込んでいた側から、出版社から仕事を依頼される立場になるまで我慢の連続だったに違いないが、基本的にモノづくりの姿勢は変わっていないのだと思う。今や全国各地から講演の声が掛かる。

「僕は人見知りなので、大勢の人を前にはじめは緊張して。原稿を用意していても何度も同じところを読んでしまって慌てたりですとか。司会の方に何か聞かれても1分くらい答えられずに沈黙したりとか」

饒舌な今の宮西さんからは考えられない姿だ。場数も重ねたからかもしれないが、何よりも創り続けてきた作品を世の中に認められて、高く評価されていることが「自信」につながったのだろう。

---これからの作品で
実現したいこと

宮西さんの代表作のひとつ「おまえうまそうだな」の続編が2006年1月、まもなく出る。ティラノサウルスがどんなキャラクターで展開するのか楽しみだ。 新作のタイトルは『あなたをずっとずっとあいしてる』。父の愛と母の愛をテーマにしているという。

「愛にもいろいろあるけれど、それぞれどの愛も、ほんものの愛はすばらしいということをみてほしいです。 これからもやさしさと思いやりのある本を創っていきたい。 そして、それらを基礎にしていろいろなカタチをだしていけたらいいなぁと思います」

ちなみに、私が大好きな絵本作家モーリス・センダックの作品についてどう思うかを聞いてみた。私は、絵本で自分の心の闇、孤独を表現しているような作品が好きだ。たぶん、根が暗いからだろうし、思いやりとかやさしさを伝えられるような言葉とか思考を私は、いまだに持てていないのだと思う。宮西さんは、ちょっと考えてから

「ぼくはね、どんな絵本作家の作品もスゴイなぁと思って読むんですよ。自分が創っているものが一番おもしろいなんて思っていないんです。それぞれが持つ、作品の良さとか違いがあるのって素晴らしいことですから


絵本の中で見かけたやさしさは、日常の中のセリフで同様に微笑んでくれた。私の苦労なんか、まだまだ始まったばかりなんだ。生活に困ったり、大変な苦労を潜り抜けてから夢を掴んだ人は強い。その強さに触れて、私も少しだけパワーを得たような気がした。お日様のような温かさを残して宮西さんはインタビュー後、フワリと街の雑踏に消えた。

 
 

書籍紹介

おまえうまそうだな
ポプラ社\1,260(税込)

 
おっぱい たんぽぽえほんシリーズ 鈴木出版 \1,050(税込)
 
おとうさんはウルトラマン学習研究社 \1,229(税込)
 
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