2004年春。横田氏はアマゾンでの取材を終え、妻の転勤でフランスへ移住した。仕事をする女性なら憧れてしまう夫婦像だ。お子さんは現在3歳でフランスの保育園に通い、普段は横田さんが執筆活動の傍ら、子どもが帰宅後は面倒をみる。フランスの育児をこう語る。
「ガツガツしてないし、競争しない感じ。アメリカや日本って消費を目的にしていると思うけれど、フランスは生活を目的にしている。2週間から1ヶ月の長〜いバカンスを取るのは当然ですし。息子が通う地域の保育園は5つありますが、4つの園は全部バカンス期間休みになる。たった一つだけの園がバックアップとして、その地域にいる子どもならどの子でもその期間行っていい。
あとね、子ども一人につき育児休暇が3年取れるんです。3人産めば9年休めます。ゆっくり働く文化なんですね。政府の補助も手厚い。それでも出生率は1.89。パートナーと暮らしていても戸籍上はシングルマザーだったり、離婚率が高いということもこの国の特徴ですね。それでも、子どもを産んで育てる環境としては、日本よりも格段にいいです」
育児だけでなく、労働環境も意識が違うと指摘する。毎週のようにデモやストが行われているという事実。雇用条件改善のために、保育園の先生でさえデモを行なう徹底ぶりという。百貨店は日曜日に休み、24時間営業のコンビニも無いけれど、それだけ労働者の生活は確保されている。
今回発売された『ヒルズで働く社員の告白』で「フランスで見つけた労働者重視の視点」というテーマで氏は寄稿している。今年4月、100人以上の犠牲者を出したJR福知山線の脱線事故についても言及している。90年代以降バブル後、過剰なサービスを追求し「消費者至上主義」がもたらした日本の労働現場の歪(ひず)みを、はたと気づかされる内容だ。蟻の目鳥の目で物事を多角的に捉えている。
「いつもは、家にこもって原稿を書くか、息子とすごしているかという生活をしているので、フランスに住みながら、フランスとの接点が少ないのです。けれど、偶然ではあるにしても、物書きである僕が、外国に住んだのですから、その国について書かないのは僕自身にとってもったいないという気がしています。そしてフランスとの一番の接点が、息子を通して見えてくるフランスです。これも偶然なことに、フランスは現在、脱少子化日本のモデルとなっています。これから、そのフランスで子どもを育てながら、フランスのことと日本のことについて考えてみたいと思っています」
僭越ながら私と同世代で、子育ての真っ最中。そしてIT企業の現場で曲がりなりにも半年間労働した「同士」である。私はこの半年のおかげで、書くという行為に飢餓状態になっていた。その上、横田さんと今回の取材で話すことができ、「もっと書いていかなくては」という思いに駆られた。次回作も楽しみな方である。
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