HOME >> KAKERUインタビュー No.1
【KAKERUインタビュー No.1】
よき兄貴、パパ's絵本プロジェクトの田中尚人さん
絵本と家族と仕事への熱い想いを聞く!
遡ること2年前の夏、田中さんとは某案件でお仕事してからのお付き合い。その後、イベント出演をご一緒したり、怪しげなバーで泥酔するまで仕事や子育てについて議論したり。もちろん社会人としては田中パパのほうが先輩ですが、なんだかホッておけない感じの微妙なアンバランスさが魅力のよき兄貴。今回の「赤ちゃん絵本ノート」は、出版社の編集さんが、私たちが裏でつながっている仲間とは知らずに別々に御指名いただき、またもやご一緒することとなりました。はてさて初の共同作品に、何をメッセージしたかったか?あるいはメッセージしたりなかったか?を語り合いました。
田中 尚人(たなか・なおと)
1962年、東京生まれ。世田谷区在住。出版社数社を経て現在絵本出版社グランまま社編集長。「パパ’S絵本プロジェクト」メン バーとして、お父さんによる絵本の読み聞かせを提唱。全国でお話し会を行っている。共著に『絵本であそぼ!』(小学館)がある。好きなものは、ビールとバカ話、70-80年代ロック、SF小説、焚き火、銭湯。
 

---2冊目の絵本ガイドブック自己評価と
田中パパやパパ'sの存在感

田中さんは近著でもパパ's絵本プロジェクトのお父さん3人で刊行した絵本ガイドブック「絵本であそぼ!」(小学館)がある。セレクトした絵本の違いや構成の違いはあれど、メッセージしたいことは一貫しており、ぶれていない。今回の書籍『赤ちゃん絵本ノート』を点数で評価すると?と聞くと「75点」と返ってきた。マイナス25点の意味とは…?

「一人の父親として、もっとたくさんのお父さんに伝えたい、共感してほしいということがあったけれど、ページ数の中では話し足りなかったね。やっぱり第一読者って、赤ちゃんのいるお母さんじゃない?だから、まずはお母さんに届くことを言わなくちゃってこともあったし。  あとね、僕は妊婦さんに絵本を読んで欲しいなと思っているの。おなかの赤ちゃんに何を夢見て何を話しかけているのか、僕は男だからよくわかんないんだけど、絵本があることで赤ちゃんを思いやる心が芽生えるってゆうか。本当は、そういう内容にしたかったんだけどね」

私はお父さんたちとの付き合いは多いが、夫婦について語れることがない。なぜなら子どもの父親である人と早々に離婚したから。でも、大家族で暮らしているせいか男手が足りなくて嘆くようなことはないし、元気に仕事ができているおかげで、毎月の住宅ローン返済が大変でも経済的に困るようなことはない。「シングルマザー」と言われると、独りで子育てしているわけではないためコッパズカシーというのが本音だ。もともと私が男っぽい性格ということもあるのだろうが、男性に求めるものが極端に少ない。『あんたができないなら私がやるからいい!』みたいなオオミエをきってしまうため、好かれるのはダメんズばっかなのだ(笑)。

でも旦那がいない分、田中さんをはじめパパ'sのお父さんたちには、遠慮なく男とか父親とか夫婦とかについてズバズバ聞けたり言えたりするのは、ありがたいことだと思う。父さんたちには、いつもうるさがられるけれど…。

---著書でメッセージしたいのは
絵本そのものより、いい時間の共有

私の父親世代は日本の高度経済成長期を支えていたので、家に居ないのが当たり前だった。そのためか父親という存在は、家庭内の経済基盤をしっかり作ってさえくれれば居なくてもいい、と冷めた目で見ていた。パパ'sのお父さんたちもまたそういう父親がいる家庭で育ってきたと思うが、父親世代を反面教師にして二の舞を踏んでいないのは単純にカッコいいと思う。仕事もして家族とも向き合う。働くお母さんは誰もがやっていることだが、お父さんがすると尊敬されるから不思議だ。今回の書籍で最もメッセージしたかったのは何だろう?

「絵本が石礎(いしずえ)というか、絆となって素敵な時間を共有することができるんじゃないかなと。特に男性って不器用だから。自然体で子どもと付き合える人ももちろんいるけれど。子育てだけじゃなくて夫婦の問題もそうだろうね。もっと仲良くしたいもっと付き合いたい、という気持ちを伝える方法論をもたない男性って多いと思うの。
例えば、奥さんと仲良くしたければ、一緒に映画行ったりライブ行ったりして、マジメに食卓で語り合うよりも、何かイベントかましたほうが楽しかったりするじゃない。それって、子どもとの付き合いとも同じ。そういう時にいつでも楽しめるのが、絵本だと。絵本を一緒に楽しめる時間ってすごく素晴らしいと思う」

絵本の選書がどうのこうのではなく、絵本を間にして楽しく過ごせる時間が大切だと説く。私もまったく同感だ。絵本を教育ツールにしてほしくないし、絵本を読む時間によって、親子共『感じる心』を持ち続けたい。ところで、田中さんは家ではどういうお父さんだろう?

「僕は外でカッコイイこと言っちゃっているけれど、実は家ではまだまだ努力不足。本音いうと、僕、カミさんには『ええカッコしいで、すぐ頭に血が上る男』と思われているんじゃないかな(笑)。子どもに対しても箸の上げ下げとか、食事の食べ方なんかも厳しいしね。
僕、料理とかするでしょ。そうすると食べるタイミングとかも結構こだわりがあるわけ。単に、食べ方ということだけじゃなくて、親父が汗水たらして仕事から帰って、すぐ食事つくって。だから料理にもメッセージを込めているつもりなの。父さんの気持ちを受け取れ〜!みたいなね(笑)結構うるさいわけ。でも、子どもたちが成長した時に、なんで親父はあんな細かいこと言っていたんだろうって振り返って、その時にはわかってもらえるんじゃないかな」

顔に似合わず、厳格な頑固父さんの一面もあるのだ。

---絵本をつくること、編集すること。   
どんな視点で絵本の仕事をしているか。

田中さんは絵本ガイドブックだけでなく、絵本の作者として作品をつくることもある。この夏、私も愚息の暴れぶりをコミカルな絵本にして、彼自身に読ませて笑いを一本取ったりした。絵本のお話をつくることと、そのお話をつくるために編集するのとは、そこにどういう違いがあるのだろう?

「本当は絵本編集者が本を書くのって禁じ手なんですよ。自分でつくったものを自分で編集するとなると客観的に見れなくなっちゃうでしょ?別の編集者にみてもらうということなら、おもしろいかもしれないけどね。
例えば自分の子に絵本を読むのと、全然知らない子に読んであげるのと違うように、自分の子に向けてお話をつくってあげるのと、一般の読者に向けてお話をつくるのとは明らかに違う。悲しいけれど、第一読者であるお母さんに届くような絵本づくりしかできない。子どもは自分で本屋さんに来れないでしょ。来てもテレビのアニメとかキャラクターとかを先に手に取ってしまう現実がある」

無名の絵本をどうやって世の中に送り出すか、そして長く愛される絵本にするにはどうすればよいのか。 絵本は読み手が成長してからまた次の世代にも読み継いでいけるものだから、アイデアだけで速攻的に売る商品ではないという。そこに絵本のよさがあると思う。クルクルとサイクルの速い新刊とは違って、じっくり作品を吟味しないといいものは創れないのだろう。今、手がけている絵本について突っ込んでみると…

「いや、まだ秘密。でも、企画自体は誰でもつくれちゃうものだと思う。ずるいぞって言われるかも。簡単すぎるかも」対象年齢についても「秘密」とニヤニヤしながら答えてくれた田中さん。次回作が楽しみです。

---私生活での親子バトル
大きな夢。小さな夢。

田中さんには11歳6ヶ月のコータくんと2歳8ヶ月のアイクくんの2人の息子がいる。年の差9歳。最初の子育てを忘れた頃、もう一度赤ちゃんがやって来てくれたようでうらやましい。兄弟とはいえ、同じ子育てなど2つとない。

「下のアイクは言い出したら聞かない子。ツムジが2つあるせいか、すごいキカンボー(笑)。口で言おうが、ひっぱだこうがダメ。いちばん理屈がわからない時期だけど、もしかしていちばん子どもらしい時期なのかも。何でも理屈で割り切れることのできる子っていうのもつまんないじゃない。  
上のコータはあまりテリブル2じゃなかった。今は思春期で、段々親の感情の機微とかもわかるようになってきた。カミさんと口げんかしていると『これは自分のせいで言い合いしているな』とか気づくわけ。で、なぜかアイクの面倒を進んでみたりしている。色々考えて、彼なりに心配しているんだよね。機嫌とろうとしたり。そういう姿みて、僕も『ごめん』と思ったりね」

よく夫婦の役割分担みたいなことを取り決める家庭があるけれど、田中家では「気づいた人が動く」を基本にしているという。朝早く起きたほうが朝食の準備をし、お弁当をつくる。夕食も同じだ。それを苦とも義務ともしないお父さんは、やっぱりなかなかいないと思う。特にサラリーマンだと会社の組織内でキューキュー絞られている分、家の中はお母さんに一任するお父さんがまだまだ多い。でも、田中さんだって会社員。こういうライフスタイルが当たり前の世の中になったら、日本もちょっとは進歩するかも。

将来の夢は?と尋ねると
「都会か田舎かわからないけど、仲間と幼稚園をつくりたい。父親がもっとガンガン関わるようなね。たくさんの第三者が子どもを育てることに参加してくれる村とか共同体ですね」

ポンと出資してくれるスポンサーがいれば、今すぐにでも立ち上げたいという田中さん。じゃ、小さな夢は?と水を向けると、
「もっと笑いがある家庭。子どもが小さな頃って赤ちゃんを囲んで、皆がニコニコ幸せになれるじゃない。でも、だんだん大きくなると笑ってばかりもいられなくなる。連れ添っているカミさんにしても、何十年も一緒にいれば笑ってばかりじゃなくて、面倒くさい話もするようになるでしょ。まあ、色々あるわけだけど、笑顔があるということは健康ってこと。お笑いじゃなくて、笑顔がある家庭ね(笑)。外でカッコよく言うほどまだつくれていないから、これからつくってゆきたいなと思う」

いやはや誠に同感です。私も田中パパみたいなことを言ってくれる独身のお父さんを探して、もう一度ケッコンしたいな!と強く思いました。愚息にも『はやくケッコンして、赤ちゃん産んでくれよ!』と言われる日々…。うーむ、彼なりに色々感じることがあるのでしょう。いつの日か、パパ'sの父さんたちと家族総出で山へキャンプに行けるといいですね。その時は、お気に入りの絵本を忘れずに持っていきますので、よろしくぅ!


書籍紹介
絵本であそぼ!
子どもにウケるお話大作戦

パパ's絵本プロジェクト
安藤哲也、金柿秀幸、田中尚人(著) / 小学館
価格: \1,260(税込)
 
ぼくの血、みんなの血
ーあたたかい贈り物
石井聖岳、田中尚人、かきぬまあきこ(著)ももくり柿の木社
価格: ¥1,260(税込)
 
 
Copyright 2008 Motheru. All Rights Reserved
プライバシーポリシー